1:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 22:24:51 ID:xyd3ozpg

凛「時間は完璧だったし、報告ではセイバーかアーチャーのはずよ」

男「そう仰っられても困りますね。」

男「大体、先ほど召喚は荒すぎではないでしょうか。天井から落とされるとは思いませんでしたよ。」

男「あーあー。私の口ひげが台無しですよ。腰も痛いです。」

凛「うるさいわね。ちょっと失敗しただけじゃない」

凛「それに英霊なら少し高いところから落ちても大丈夫でしょ?」

男「私は耐久には自信ないんですよ。ちゃんとステータス確認しましたか。」

凛「あ」

男「私を使役するのですから、せめて私の状態くらい把握していただかないと。」

凛「わかったわよ、もう。口うるさいわね」 

    

2:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 22:26:59 ID:xyd3ozpg

ステータス
筋力E 耐久D 敏捷E 魔力B++ 幸運A+ 宝具A++
クラス別能力
対魔力A+ 単独行動E-

凛「ちょっと待ちなさい」

男「はい、なんでしょうか。」

凛「貴方、アーチャーでしょ」

男「・・・・・・」メソラシ

男「いえ、キャスターです。」キリッ

凛「あんたねえ…」

凛「対魔力と単独行動を持つ英霊が、キャスターなわけないでしょ!」

男「ここにいます。」キリッ 



3:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 23:15:29 ID:xyd3ozpg

凛「令呪を持って命じる。アーチャー…」プルプル

男「わわわ、待ちなさい、お嬢さん。早まってはなりませんぞっ

凛「うるっさい!私に嘘をつくなーーーーーーーっ!」

ドーン

男「痛い痛い痛いです、わかりました、実はアーチャーです、嘘はつきませんから勘弁して下さい。」 



4:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 23:16:37 ID:xyd3ozpg

凛「それで・・・、貴方の真名を教えていただけないかしら」フーッフーッ

男「君は失礼だね。まずは自分から名乗り出るのが礼儀だろうに。」

凛ギロッ

男「おっと、怖い、怖いですよ。実は召喚が乱暴なせいで自分が誰だか、正確に思い出せないのです。」

凛「はぁっ?貴方、自分が誰だか分からないっていうの?」

男「いえ、まあ、そうなのですが。」 



5:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 23:17:07 ID:xyd3ozpg

男「一応、王様まがいのことをしていたはずです。」

凛「いやいや、貴方、自分の真名を思い出さないと宝具も満足に使えないじゃない」

凛「はあ・・・とんだハズレサーヴァントを引いてしまったわ」

男「申し訳ないですね。」

凛「まあいいわ。とにかく、貴方が自分が誰だかわかるまで派手には動けないわ」 



6:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 23:17:46 ID:xyd3ozpg

凛「とりあえず、部屋を片付けてちょうだい」

男「一応、私、王様なんですけど。ああ、そんな怖い目で見ないでください!わかりましたから!」

男「ところで、貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか。」

凛「遠坂凛。凛と呼んでくれて構わないわ。」

男「では、凛さん、と。ご覧のとおり頼りないサーヴァントですが、誠心誠意、お使え致しましょう。」

凛「なんだか、当てにならないわね・・・」 



7:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/26(土) 23:18:19 ID:xyd3ozpg

凛(ん?)

ステータス
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力B++ 幸運A+ 宝具A++

凛(ステータスが強化されてる・・・?私、何かしたかしら・・・)

凛(宝具以外、弱いことには変わりないけどね。)

凛(背は高くないし、猫背だし、ちょびひげなんか生やしてるし。心配になってきたわ) 



9:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/27(日) 11:17:08 ID:VXQTW1lg

学校・屋上(昼)

凛「学校に結界が張られているから、なんとかしないと」

男「学校に登校したのが不用心だったのですよ。」

凛「だって、まさか学校にマスターがいるとは思わないじゃない」

凛「聖杯戦争は秘匿すべきものよ。それが堂々と学校を襲うなんて、よほど切羽詰まってるのかしら」

凛「一般人を巻き込むなんて、三流の魔術師のすることよ」 



10:以下、名無しが深夜にお送りします:2015/09/27(日) 11:18:30 ID:VXQTW1lg

男「一般人の被害を防げる可能性が生まれたのは良いことですが、」

男「すでに、凛さんの身に危険が及んでいます。ここは一旦退くべきでしょう。」

凛「あら。危険から私を守るために貴方がいるのではなくて?キャスター」

男「何事にも万が一ということがあります。」

男「想定外のことが起きている以上、慎重に行動すべきです。」 



11:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:19:21 ID:VXQTW1lg

凛「キャスターの言い分は分かったわ。でも、誰かが一方的に力を付けるなんて許容できないじゃない」

凛「事態は悪くなる前に行動したほうが良いと思わない?」

男「ですが。」

凛「とにかく、私のことはキャスターが守ってくれさえすればいいの」

凛「まずは、結界の調査を優先しましょう」

男「・・・・・・わかりました。凛さんがそのように仰るのなら、従いましょう。」 



12:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:21:11 ID:VXQTW1lg

学校・屋上(夜)

凛「何個か魔法陣を見つけて遅らせることはできたけど、作動させないのは無理そうね」

男「そうですね。これはかなり古い魔術です。」

男「解除しようと思えばできないこともないですが、リスクに見合わないでしょう。」

凛「結界に関しては打つ手はない、ということね」

男「いえ、これはある種神殿のようなものですから、使用者はかならず結界の中に現れると思います。」

男「危険ですが、私の対魔力なら耐えられるでしょう。そこを捕捉すれば、被害は出ないかと。」 



13:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:21:54 ID:VXQTW1lg

凛「あら、随分と好戦的なご意見ね。珍しいじゃない」

男「ええと、その、マスターのご意向ですから。」アセアセ

凛「ふふっ、わかったわ、キャスター」

男「凛さん。少しまずいことになりました。急いでここを離脱しましょう。」

凛「え?」

男「早く!!」

男は凛を抱えると、屋上から飛び出す。
その数瞬の後、男が立っていた地面が大きく抉られる。

ランサー「ちぃっ。逃げ足がはええな。逃げられると思ってんのか。」 



14:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:22:59 ID:VXQTW1lg

学校・校庭(夜)

凛「ああ、もう、離しなさいよっ」

男「分かりました。」

男「申し訳ありません。敵は私の想定よりかなり足が速いようです。」

凛「戦うしかないわね。キャスター、ここで何とかするわよ」

男は凛を下ろすと、後ろを振り返った。 



15:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:25:45 ID:VXQTW1lg

ランサー「ほぅ。魔術師風情が外を出歩くとは、呑気なものじゃねえか」

ランサー「ここで出会ったのが運の尽きよ。大人しくしてくれたら苦しまずに済むぜ」

男「これはこれは。そう仰る貴殿はランサーとお見受けします。」

男「その赤い槍と、私が感知し、貴方がここに来るまでの時間。」

男「かくも足の速い槍兵は、この世に3人いるかどうか、といったところですか。」

ランサー「俺のことを知っているのは嬉しいねえ。こちらじゃ有名じゃなくてよ」 



16:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:28:14 ID:VXQTW1lg

ランサー「良いぜ、気に入った。得物を持つ時間くらいはくれてやる」

男「いえ、これで十分です。」

ランサー「そうかい」ダッ

ランサーが一気に距離を詰めてくる。
キャスター相手に遅れを取ることはない。しかし、接近戦ならばより有利に戦いを運べる。
キャスターは、明らかに、遅い。 



17:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:29:09 ID:VXQTW1lg

ランサー「もらった!」

ランサーの槍が突き出される。が――
それは空を切った。そらされたというべきだろうか。

自分とキャスターとの間に、一体のサーヴァントが唐突に現れていた。

ランサー「誰だ、テメエ。」

「坂本龍馬、といったら聞いたことはあるがでが。」 



18:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 11:30:03 ID:VXQTW1lg

ランサー「もらった!」

ランサーの槍が突き出される。が――
それは空を切った。そらされたというべきだろうか。

自分とキャスターとの間に、一体のサーヴァントが唐突に現れていた。

ランサー「誰だ、テメエ。」

「坂本龍馬、といったら聞いたことはあるがでが。」 



22:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:03:24 ID:VXQTW1lg

ランサー「ちっ」

ランサーは大きく後ろに距離を取り、思案する。
敵は、その場に突然現れていた。
少しあたりを見回したが、その場に魔術が展開されたような痕跡はない。
だとすれば、これは――

ランサー「なるほど、これがテメエの宝具ってわけかい」 



23:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:07:52 ID:VXQTW1lg

男「さて、どうですかね。私がセイバーと同盟を組んでいるかもしれません。」

男「何がともあれ、術中に落ちたのは貴方です。」

男が構え、ブツブツとつぶやく。

ランサーは動かない。突然サーヴァントを召喚するような相手なら、慎重に戦ったほうが良い。
自身の持つ対魔力のスキルは直接的な作用にしか効かない。
仮に、坂本龍馬と名乗る男に斬られれば、それは致命傷となるだろう。
しかし、大魔術の類なら対魔力が効く。受け止めて、隙をつけば良い。 



24:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:11:33 ID:VXQTW1lg

凛(やっぱりこいつ、何か隠してるわね。真名を忘れて宝具が使えないなんて嘘じゃないの)

凛(でも、令呪の縛りが効いてる様子はないわね・・・)

凛「え?」

凛の魔力が大きく消費された。アーチャーがさらに何かしようとしている。

凛「ちょっと、何勝手に――
轟音が鳴る。そして、目の前の光景に言葉を続けることはできなかった。 



25:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:13:33 ID:VXQTW1lg

銃剣を担いだ兵隊が校庭に並ぶ。数は優に100人を超えている。
凛が見る限り、それらは全員サーヴァントのようだった。そんなことがありえるだろうか。
兵が機関銃らしきものを即座に配置すると、小隊から怒号が飛んだ。

「第一戦銃小隊、欠員なしであります。」
「第二戦銃小隊、欠員なしであります。」
「第一弾薬小隊、準備出来てるであります。師団長殿、指示をお願いするであります。」

師団長と呼ばれたカイザル髭の男が剣を構える。
勲章が胸に所狭しと並んでいるのが印象的だ。 



26:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:16:17 ID:VXQTW1lg

唖然とするランサー。しかし、相手の行動を見ると思い出したように槍を構えた。

ランサー「テメエ、やっぱりキャスターじゃねえな。さしずめ――」

師団長「打ちー方、はじめー!」

機関砲がうねりをあげる。長銃のおまけつきだ。

ランサー「アーチャーってとこかああああああ!?」 



27:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/27(日) 23:18:11 ID:VXQTW1lg

凛(なにこれ。反則じゃない・・・) 



29:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:16:08 ID:YiDrmBNA

男「ふむ。」

凛「なんなの、あのサーヴァント・・・」

凛が信じられないという目でランサーを見つめる。
すさまじい速さで動いているため、姿が朧げにしか見えない。
しかし、ランサーは全ての銃弾を躱しながら、確実に前進していることだけは分かった。

男「単純な身体能力では説明がつかないですね。あれは。」 



30:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:17:17 ID:YiDrmBNA

男「陸運殿、どう思われますか。」

師団長「案ずるな。前に進んで来る限り、いずれは仕留めよう。」

師団長の言葉通りである。
弾幕は兵に近づくほど濃くなっていく。
槍が届く範囲まで接近することができれば、戦いになる。
しかし、そこまで近づく事、それ自体が不可能―― 



31:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:17:53 ID:YiDrmBNA

凛「ランサーが退こうとしないってのは、不自然ね」

男「間違いなく、切り札があります。本来の目的に戻りましょう。」

男「撤退の準備です。」

ランサー「つれねえな、オイ」

ランサーの声が響く。銃声の中でも声がよく通るのは英霊たる所以だろうか。
銃弾を器用にいなしてはいるが、そこから前に進めないのか、その場に留まっている 



32:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:19:05 ID:YiDrmBNA

凛「どうやらもう進めないようね。そうしてずっと留まってなさい、ランサー」

ランサー「こっちの事情も知らないで、いい気なもんだな。嬢ちゃん!」

ランサー「まあ、ここまで近づけば十分だがな。」ボソッ

ランサーが低く呟く。
アーチャーに緊張が走る。その一言は、ハッタリなどではない。 



33:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:21:03 ID:YiDrmBNA

ランサー「ここでテメエ等は脱落だ。冥土の土産に喰らっていけや」

男「離れろ、凛!」

ランサー「突き穿つ――――」(ゲイ―――――

ランサー「―――死翔の槍!」(―――ボルグ!!)

その瞬間、凛は男に投げ飛ばされていた。 



34:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:22:56 ID:YiDrmBNA

凛がすりむいた顔を上げる。
そして、焼け焦げ、クレーターができた校庭を見回した。

宝具をまともにくらった正面の小隊と師団長は消滅していた。
それでも、まだ兵の半分はその場に留まっている。
明らかに落胆し、士気が落ちていたが。

凛「アーチャー?」

返事はない 



35:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:23:40 ID:YiDrmBNA

凛「・・・・・・そこで何をしているの、アーチャー」

男「ギクッ。」

凛「ギクッじゃないでしょ!貴方主人を何だと思ってるのよ!」

凛「地面に埋もれてコソコソしてるなんて、一体どこが英霊なのよ」

男「いやあ申し訳ない。まさか本当に軍が吹き飛ぶ槍というのは想定外だったので。」 



36:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:24:58 ID:YiDrmBNA

ランサー「テメエを狙った槍だったはずなんだが――、狙いが逸れたか」チッ

男「おや、まだまだ元気そうですね。私の兵もまだ戦えますよ。」

ランサー「いや、マスターから槍が外れたら帰って来いって話で――」

ランサー「誰だ!」

遠くで少年がビクッと肩を震わすのが見えた。
踵を返して、校舎の方へ逃げ込む。 



37:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:25:31 ID:YiDrmBNA

ランサー「待ちやがれ!」

その後をすぐランサーが追っていく。

凛「どうして、こんな時間になんで学校に生徒が残ってるのよ!」

凛「追うわよ、アーチャー!」 



38:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:26:01 ID:YiDrmBNA

男「ランサーが罠を仕掛けているかもしれません。」

男「慎重に進むべきでしょう。」

凛「わかってるわよ、もう。ほら、急いで!」 



39:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:26:51 ID:YiDrmBNA

心臓を一突きされた死体が3階の廊下に転がっている。

凛「そんな、こんなことって――」

せめて看取ろうと身体を起こすと、それは桜の親しい友人、衛宮士郎だった。
凛は見知った顔に愕然とした。

男「助けたいのですか?」 



40:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:27:26 ID:YiDrmBNA

無言で凛は頷く。奇跡的にまだ息はある。
難しいが、自身の持っている最高の魔術を結集すれば或いは助かるかもしれない。

凛「この宝石を使ってなんとかするわ。アーチャー」

それは、凛が10年間魔力を込め続けてきた、切り札中の切り札であった。
アーチャーが眉をひそめる。 



41:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:29:10 ID:YiDrmBNA

男「君の判断は早過ぎるようです、凛さん。私をもっと信用していただかないと。」

男「わざわざマスターの手を借りずとも、彼なら私で治癒できると思います。」

凛「でも・・・・・・」

男「エネルギーの高い状態をある定常状態に戻すのは私の得意分野です。」

男「彼は、どうやら自力である程度再生しようとする能力があります。」

凛「え?」

男「それに働きかければ、恐らくかなり楽に蘇生できるでしょう。」 



42:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:31:34 ID:YiDrmBNA

アーチャーは屈むと、破れた心臓の上に両手を当てた。
心臓が破れれば、普通の人間なら呼吸できるはずがない。脳に血液が送り込めないのだから。
しかし、衛宮士郎にまだ息があるというのが、すでに自然の理から外れた状態である。
理を乱している「中心」に従って、力を送り込んでいくと、少しずつ身体が戻っていく。

血管が繋がっていく。分裂しないはずの心筋細胞が分裂を起こし、肥大化していく。
骨が再生し、それにつながる筋肉が戻り、皮膚が塞がっていく。

どれだけ時間が経っただろうか。

血だまりの中で傷一つ残さず、衛宮士郎は完全に蘇生していた。

凛「信じられない・・・」

男「私も信じられません。」

男「さて、長居は無用です。とにかく、急いで撤収しましょう。」

男(この学生には不審な点が多すぎる。調べておかなくては。) 



43:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:32:38 ID:YiDrmBNA

遠坂邸(深夜)

凛「今日は盛りだくさんだったわね」

男「だからあまり派手に動きまわらない方が良いと言ったのです。」

男「どうやら私がアーチャーというのも露見してしまったようですし。」

凛「あら、まともなマスターなら貴方がアーチャーなんて一目で分かるわよ」

凛「キャスター、なんて呼んでいたら私のマスターとしての適性が疑われる」

凛「これからは貴方のことはアーチャーって呼ぶわね。だって意味が無いもの」

男「あ、そう。」

男「いや、良い作戦だと思ったのですけどね。」 



44:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:34:18 ID:YiDrmBNA

凛「あと。アーチャー、私のことは『凛』と呼びなさい。年上からさん付けはくすぐったいわ」

男「名前を呼び捨てるのは私がくすぐったいのですが。」

凛「良いわね」ギロッ

男「・・・わかりました。」

男「急いで撤収してしまいましたが、衛宮さんは大丈夫でしょうか。」

凛「大丈夫でしょ。だって完璧に治ってるんですもの」

男「いえ、私なら仕留めた相手がピンピンしていると知ったらもう一度襲うと思います。」

凛がキョトンとした顔をしている。
アーチャーが、少しは可愛らしいところもあるじゃないかと思案していると―― 



45:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:38:07 ID:YiDrmBNA

凛「ああん、もう!貴方が早く帰ろうとか言うから気づかなかったじゃない!」

男「いえ、私は気づいていたのですが。」

男「そもそも、衛宮さんをその場に置いていくよう指示したのは凛ではないですか。」

凛「」プルプル

凛「すぐ学校に戻るわよ」

男「はい?」 



46:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:41:27 ID:YiDrmBNA

凛「一度助けた相手がまた死んじゃうなんて寝覚めが悪いじゃない」

凛「それなら助けないほうが良いわ。一回しか苦しまずに済んだのだから」

凛「早く、支度なさい」

男「凛、貴方は大丈夫なのですか。」

凛「私なら心配いらない。無駄口叩く暇があったらさっさと行くわよ!」

男(そういうところが心配なのです。もう一度ランサーと遭遇したらどうするのですか・・・) 



47:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 07:45:39 ID:YiDrmBNA

ステータスが更新されました。

筋力D 耐久C 敏捷D 魔力B++ 幸運A+ 宝具A++

クラス別能力
対魔力A+ 単独行動E-

保有スキル
神術B++
「神」の術を再現するスキル。
時計塔が頂点の魔術とは異なる系統である。
基本的に神性に頼るため、マスターの魔力とは無関係に発揮される。
ランクB++であれば、一時的であればランクA+相当の魔術に匹敵する。

弾除けの加護B
飛び道具に対する防御スキル。
攻撃が単体の射出タイプであるなら、あらゆる距離から通じない。
ただし、ランクBでは複数の攻撃に対しては無効となる。

神性C カリスマA- 心眼(偽)C 



48:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/28(月) 21:29:36 ID:YiDrmBNA

衛宮邸(深夜)

凛「学校にいなかったから、とうとう、ここまで来ちゃったけど・・・」

凛「ちょっと、静かすぎない?」

男「もう手遅れかもしれません。ランサーが罠を張っている可能性もあります。」

男「ここは慎重に・・・

アーチャーが言葉を切り、唐突に上を仰ぐ。何者かが着地し、襲ってくる。
得物はわからないが、敵であることは間違いない。
防御が間に合わない―― 



49:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:38:02 ID:V2kbjgZc

士郎「やめろ、セイバー!」

セイバー(!!)

動きが止まる。

セイバー「何故です、シロウ!」

士郎「あいつらは知り合いだ、セイバー。攻撃する理由なんてないじゃないか」

凛「あら、攻撃する理由がないなんてことはないわ」

士郎「何言ってるんだ、遠坂」

男「凛、そこまでにしましょう。私は衛宮さんに助けられた。それが全てです。」

士郎「そうだぞ。遠坂は俺になんの恨みもないだろ」

士郎「・・・ちょっと待て。何でお前が俺の名前を知ってるんだ?」

士郎「というか、遠坂!?どうして夜遅くにこんな所をほっつき歩いてるんだ」

遠坂「色々と説明しないといけないことがあるようね。上がらせてもらえるかしら、衛宮君。」

士郎「ん、ああ、わかった」 



50:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:38:57 ID:V2kbjgZc

遠坂「・・・まとめると、貴方は聖杯戦争という魔術師達の儀式に巻き込まれた」

遠坂「サーヴァントを召喚してしまった以上、教会に行かないといけないの」

士郎「わかった、教会に行けばいいんだな」

士郎「どこにあるんだ?」

遠坂「新都の方よ。衛宮君の安全も考えると、すぐに行ったほうが良いわね」

士郎「こんな夜更けにか。俺たちはともかく、教会は開いてるのか?」

遠坂「開いてないなら開けさせるわ。行きましょう。セイバーも一緒にね」 



51:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:43:33 ID:V2kbjgZc

教会・外

凛と士郎が教会に入って数十分が経った。
沈黙に耐え切れなかったのか、アーチャーが口を開く。

男「ところで、お嬢さんはどこの英霊ですかな。」

セイバー「教える義理はない。私はまだ貴方のことを信用していません、アーチャー」

セイバー「お嬢さん、などと気安く話しかけないでいただきたい」

男「剣呑な英雄さんですなあ。」

セイバー「そもそも素性を知りたいなら貴方から名乗るべきでしょう」

男「あいにく、名乗るような氏を持ちあわせていないのですよ。」

セイバー「図々しいにも程がある。アーチャーもし私の主人を害するなら唯では済ませません」

男「君の主人はここの住人だろう。ならば、私が傷つけることはあり得ません。」

セイバー「口先ではどうとでも言える」

男「やれやれ、嫌われてしまったようです。」

頃良く教会から、凛と士郎が戻ってきた。
来た道を引き返す。 



52:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:46:17 ID:V2kbjgZc

凛「良い、衛宮君。家に着くまでは貴方に危害を加えるつもりはないけど、」

凛「次会った時は、お互い敵同士よ」

士郎「なんだ、遠坂。俺のことを心配してくれてるのか」

凛「はあっ!?」

アーチャーは後ろで溜息をつく。
少年と少女の温かい交流を前にして、自分に居場所が全く無い。
セイバーは霊体化できないから付き合っていたが、
もう大人しく霊体化して魔力の消費を抑えようかと思案していたその時――

凛「なんなの、あの筋肉ダルマは・・・」 



53:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:51:54 ID:V2kbjgZc

巨人が道路の中央にそびえ立つ。身長は軽く2mを超えているだろう。
隣の少女が礼儀正しく挨拶をしてきた。

少女「こんばんは、おにいちゃん」

少女「私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

イリヤ「イリヤって呼んで良いよ。おにいちゃんは特別だから」

凛「――あのサーヴァント、ステータスがカンストしてるじゃない・・・」

イリヤ「あら、凛もいたの。手間が省けてちょうどいいわね」

イリヤ「ごめんね、おにいちゃん。仮にもマスターなら、死んじゃっても文句は言えないわ」

イリヤ「やっちゃえ、バーサーカー!」 



54:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:54:28 ID:V2kbjgZc

セイバー「危ない、士郎!」

セイバーが飛び出し、士郎に向かっていた斧剣を止める。
しかし、巨人の力に押されて後ろに吹き飛んだ。

士郎「セイバー!」

凛「バカッ、貴方が邪魔になってるのが分からないの!?すぐ下がりなさい!」

凛の剣幕に押されて士郎が後ろに転がり込む。それを追う斧剣。
あと一太刀で届く。
それを、体勢を立て直したセイバーがなんとか死守していた。

セイバー「士郎、下がってください!」

凛「アーチャー!」

男「何とかしてあげたいのですが、軽く手出しのできる状況ではありません」

男「凛も万全の状態ではない。ここは我慢です。」

凛が拳を固く握りしめる。
アーチャーの言ってることは正しい。 



55:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:55:03 ID:V2kbjgZc

最優のサーヴァントであるセイバーと、最強のサーヴァントであるバーサーカーの一騎打ち。
これを支援しようとしても、アーチャーの宝具には荷が重い。逆に足を引っ張りかねないのだ。

凛(これが、普通の弓兵だったら・・・!)イライラ

男「私達とバーサーカーの距離を離してください。ランサーと同じ要領で時間を稼ぎます。」

凛「わかったわ、アーチャー。作戦があるから、協力しなさい」

凛「あと、今の私に魔力のストックは多くはないから、展開にはこのペンダントを使って」

男「承知しました。」

凛「セイバー!出来る限り私達との距離を取って!」

セイバーからの返事はない。バーサーカーの猛攻を抑えるので手一杯だ。
巨大な斧剣を軽々扱い、セイバーを翻弄するそれはバーサーカーの技とは思えなかった。
少しずつだが、確実にセイバーが押されている。
もう長くは持たないのは明らかだった。

凛「アーチャーが宝具を使うわ」

凛「セイバーが取り残されるから、令呪で貴方のところまで呼んで」

士郎「分かったよ、遠坂。でも、出来る限り早く頼む」

士郎「見ていられない」 



56:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:55:43 ID:V2kbjgZc

バーサーカーを何とかしのいでいたが、とうとう均衡が崩れた。

斧剣がセイバーの腰を打つ。
見えない剣では勢いを殺しきれず、横に飛ばされ――
電柱に激突した。

セイバー「ぐっ・・・」

士郎「セイバー!」

僅かな隙を逃すバーサーカーではない。
斧剣を薙ぐと、セイバーがさらに奥へと吹き飛ばされた。

止めを刺そうとバーサーカーが追撃する。
これ以上は無理だと士郎が思わず口を開く。
凛は、最大の距離が稼げていると判断した。

二人の息がぴったりと重なる。

士郎「令呪を持って命じる――

凛「頼んだわよ、アーチャー!」 



57:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:56:37 ID:V2kbjgZc

アーチャーによって放たれた、ありったけの宝石がバーサーカーに降り注ぐ。
放たれた、といっても投げただけだが、そこは英霊なのか、すさまじい速さと正確さだ。

凛「喰らいなさい!」

宝石は結界を作ると、重力と化して獣を襲った。

宝石は魔力が無くなればそこで終わる。全ては一時しのぎに過ぎない。
しかも、アーチャーが凛の宝石を放った時点で、彼は大した英霊ではない。
そう判断したイリヤは、二人を始末するべく指令を下す。

イリヤ「トドメよ、バーサーカー!」

しかし、士郎の令呪が間に合い、バーサーカー目の前からセイバーが姿を消す。

イリヤ「こんなところで逃げようとしても、同じなんだか・・・」

振り返ったイリヤの目の前に、軍勢が広がっていた。 



58:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:57:56 ID:V2kbjgZc

凛は見慣れた光景が広がると思っていたが、それは過小評価だったらしい。
ランサー戦とは規模が違う。

道路から溢れ、森へと延々に兵達が連なる。その数は夜闇に紛れ、把握することはできない。
戦車やロケット砲もちらほら見えた。全て宝具のようだ。

凛はあまり科学には詳しくない。
詳しくはないが、ランサー戦とは時代が違うことはなんとなく把握していた。
こちらのほうが、より近代的だ――

呼び出す軍勢は、アーチャーに供給する魔力で大きく違うらしい。

凛「一体、何人いるのかしら」

独り言を思わず呟く。
士郎やセイバーも驚きを隠せていない。

凛「それにしても、重苦しいわね」

士郎「そうだな」 



59:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:58:34 ID:V2kbjgZc

兵達から決死の覚悟が伝わってくる。
決死の覚悟という言葉すら生ぬるいかもしれない。
彼等、一人一人の表情や態度こそ違えど、纏わりつく雰囲気は同じ――

ここで、全員死のう。

それは、定められた運命に対する覚悟だった。

兵の中から、茶色のコートをまとった将校が出てきた。
アーチャーの前に頭を垂れる。

男『君たちには再び迷惑をかける。』

男『一秒でも長く、彼らを足止めしておいて欲しい。』

男『これは命令ではない。私からのお願い、と思ってくれ。栗林君。』

言葉の一つ一つが空気に溶けていく。

静寂が広がる。
葬式のような、祭りのような、ちぐはぐで重苦しい雰囲気が更に強まり、肌に突き刺さる。
凛は、アーチャーの悔悟と苦悩が混じり合った顔をただただ眺めていた。

栗林、と呼ばれた将校の口が動く。

将校「仰せのままに」

ドンッと大気が震え、耳が遠くなる。
あやうく失神しかけたが、凛は踏ん張って耐えた。
アーチャーに声をかけられ、その震えが兵達の怒号と気づく。 



60:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 06:59:36 ID:V2kbjgZc

男「彼らが足止めに協力してくださっています。」

男「ここからは離脱しましょう。」

凛「ええ・・・そうね。」

士郎「セイバー、動けるか?」

傷つき、血が鎧にこびりついたセイバーを心配そうに覗き込んでいる。

セイバー「動くだけなら問題ありません」

凛「そう。じゃあ、行くわよ」

兵達から背を向け、一歩、そして一歩と踏み出す。
最後には、歩くアーチャーを置いて、逃げるように凛達は走っていた。
息があがり、足が痛んでも、構わず走り続ける。

彼らの覚悟は狂気のそれだ。

凛(どっちが狂戦士か、わかったもんじゃないわ)

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――!」

遠くから、バーサーカーの雄叫びが聞こえた気がした。 



61:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 07:01:51 ID:V2kbjgZc

Interlude 1

イリヤ「こいつら、なんなのよーっ!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■■■ー!」

最初、兵はバーサーカーを狙っていた。
しかし、全く効果がないとわかると、次にイリヤを狙ってきたのだ。
マスターが倒されれば、如何に強力なサーヴァントと言えど、消滅は免れない。

判断は非常に早かった。
数発の砲弾が直撃しても全く効果がないと分かると、全ての敵意がイリヤに向いた。
最初は砲弾。次に銃弾。最後は、文字通りの肉弾だ。

イリヤはバーサーカーの懐で震えている。
右腕には攻撃による痛々しい銃創ができていた。

バーサーカー「■■■ーーー!!!」

バーサーカーが銃剣で向かってくる兵士たちを叩き切る。
身体が欠け、満足に動くことができなくなっても、彼らは敵意を向けてくる。
切っても切ってもゾンビのように立ち上がる彼らを切り刻む。 



62:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/29(火) 07:02:27 ID:V2kbjgZc

心のないバーサーカーなら問題はないが、少女にはそれが堪えた。
バラバラになっても動き続ける彼らが、深く仕舞い込んでいたトラウマを呼び起こす。

イリヤ「もう、もうやめて、やめて、イヤ、イヤ、いやああああああああああああ!!!」

イリヤ「あ・・・」

バーサーカーにそっと締め付けられ、少女は気絶する。
理性のない彼の真意は分からない。しかし、そのほうが幸せだったかもしれない。
かの大英霊ヘラクレスも、他人の心まで守ることはできないのだから。

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーー!!!!!」

次々と突撃して、兵が虚無へと還っていく。しかし、将校は止める素振りを見せない。
彼らは、死んだ後も、故郷に帰ることができなかった者達。
名誉ある最期を禁じられ、命令に従い、生き地獄の中で生涯を終えた英霊たちだ。

再び家族の元にも戻れず、故郷の土を踏むことも叶わず、こういう形でしか帰ることは叶わなかった。

それが、仮初の姿であっても、故郷の土が踏める。
そして、最も敬愛する方の頼みで名誉ある死を迎える。
それは、彼らの喜びだった。そのことを、将校はよく理解していた。

その双眸にやどる光は、或いは狂気か。

将校「全軍、突撃だ」

地獄は、日が昇り、最後の一兵となった将校が自刃するまで続いたのである―― 



68:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:02:06 ID:quUrkmWM

遠坂邸(深夜~朝)

凛は家につくと、そのままベッドに倒れこむ。
バーサーカーを退治するまでという条件で衛宮君とは同盟を結んだ。
恐らく悪いようにはならないだろう――
そのまま微睡みに身を委ねた。

目が覚めると、見知らぬ建物の中にいた。
宮殿のような場所だ。

凛(ああ、これはアーチャーの記憶ね)

見知った姿が鎮座している。まだ随分と若い頃のようだ。

アーチャー「まだ、復興には時間がかかりそうだな。」

女「今は自分のことに集中してくださいまし」

アーチャー「地震は、やはり恐ろしいな。」

アーチャー「こうしている間にも、彼らは働いているのだぞ。早くせんか。」

女「ならば、尚の事、集中してくださいまし。刻印の移植は簡単ではないのですよ」

女がピシャリと言う。
随分と親しい関係のようだ。 



69:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:03:11 ID:quUrkmWM

アーチャー「しかし、この埋め込むというのは痛くて敵わん。」

アーチャー「少しは気が紛れるようなことをしてはいかんのか。」

女「そのようなことをなされると、明日の朝刊は殿下の悲報でうめつくされますわ」

女「今は、国の大事です。これ以上、貴方が愛する民を困らせたくはないでしょう?」

アーチャー「・・・・・・」

アーチャーが顔をしかめる。
よく見ると、その体は魔術刻印で埋め尽くされていた。
頭、肩、腕、胸、腹、背中・・・・・・刻印のない部位を探すほうが難しい。
凛は遠坂家6代目当主だが、刻印は片腕の前腕までだ。

魔術師の強さは、当人の才能と、代の長さに依存する。
刻印の数の多さと複雑さ。
それだけで、アーチャーが途方も無い魔術師であることが分かった。

女「ここまで移植が進んだ方は、少なくとも過去700年はおられないでしょう」

女「百代を超えたのは、殿下が初めてとお聞きしております」 



70:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:16:48 ID:quUrkmWM

アーチャーは何も答えない。
しばらくすると、女がためらいがちに口を開いた。

女「御父上は、埋め込む途中で体調を崩されてしまったそうではありませんか」

女「あなたは、大丈夫なのですか・・・?」

感情に乏しい顔のアーチャーが眉をひそめる。
どうやら、この話題は彼の逆鱗らしい。

アーチャー「父のことを軽々しく口にするでない。手元に集中なさい。」

女「・・・失礼しました」

女が作業に戻る。黙々と時間が進んでいく。

凛は魔術刻印を目で追っていく。百代を超えた刻印など、聞いたことはない。
恐らく、伝承にすら残らなかった、はるか昔の伝説的な魔術師なのだろう。
あのちょびひげは、キャスターとしては最高ランクなのかも――などとぼんやり考える。

刻印は奇妙に光って見えた。
とても美しい光だと、凛は奇妙な心持ちで眺め続ける。

だんだんと光が大きくなる。
そして、光に包まれると―――

現実に引き戻されていた。 



71:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:17:20 ID:quUrkmWM

目を薄く開く。
皺が深くなったことを除けば、やはり瓜二つだ。
サーヴァントの過去を夢に見るというのは本当なのだろう。

凛「もうちょっと寝かせて~」ムニャムニャ

男「起こして欲しいといったのは凛ではないですか・・・」

アーチャーは、少女の幸せそうな顔を覗き込む。

男(まあ、もう少し寝かせてあげますか。)

その後、彼は凛からの語彙力豊かな文句を、延々と聞かされる羽目になる。
目を薄く開く。
皺が深くなったことを除けば、やはり瓜二つだ。
サーヴァントの過去を夢に見るというのは本当なのだろう。

凛「もうちょっと寝かせて~」ムニャムニャ

男「起こして欲しいといったのは凛ではないですか・・・。」

アーチャーは、少女の幸せそうな顔を覗き込む。

男(まあ、もう少し寝かせてあげますか。)

男(工房の片付けでもしておきましょうか。あそこは雑然としすぎています)

その後、彼は凛からの語彙力豊かな文句を、延々と聞かされる羽目になるのだが、
現時点では、それをアーチャーが知る由もない。 



72:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:18:24 ID:quUrkmWM

遠坂邸(昼)

凛「これぐらいで勘弁してあげるわ。次はマスターの言う事にはきちんと従いなさい」

男「・・・従いましたとも。」

凛が睨みつけてくる。言った言わない論争では、口下手なアーチャーには不利だ。
何でもありません、次はきちんと従いますと釈明するとようやく解放してくれた。
アーチャーが胸をなでおろす。

凛「そういえば、アーチャー。貴方、聖杯に何か願いとかあるの?」

男「聖杯への願い、ですか。」

男「フグが食べたいですね。あと、沖縄に行きたいです。」

凛「」ズコー

凛「やけに具体的じゃない・・・理由を聞かせてもらえるかしら」

男「いやあ、生前はどちらも叶いませんでしたから。まあ、聖杯の力を借りる代物ではないですね。」

男「そういう貴方は、なにか願いとかないのですか。」

凛「ないわ。この聖杯戦争で、実力が証明されれば十分よ」

男「それはそれは。欲が深いですね。」 



73:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:20:19 ID:quUrkmWM

少し沈黙するとお互いに笑う。
昨日の戦いを通して、二人の信頼関係は強固なものとなっていた。
このサーヴァントでなければ、バーサーカーに遭遇した時点で敗北していた。

男「さて、今後の作戦はもうお決めになられましたかな。」

凛「まずは、学校の結界を調査するわ」

凛「ランサーは手がかりがないし、バーサーカーには今の時点では敵いそうもない」

凛「結界を張っているとしたら、ライダーかキャスターで、三騎士には劣るはずよ」

凛「衛宮君は戦力にはなりそうもないけど、セイバーは使えるわ」

凛「結界が作動すれば、相手は学校に現れるんでしょう?」

男「絶対、とは言いませんが。確率はかなり高いと思います。」

凛「賭けとしては十分だわ。相手もまさかセイバーとアーチャーがお出迎えなんて、想定外でしょうし」

凛「旅行の準備をしなさい、アーチャー」 



74:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 07:24:29 ID:quUrkmWM

男「旅行ですか。守りの固い遠坂邸から離れるのは危険ではないですか?」

凛「逆よ。アインツベルンに、この場所はバレバレになってる。」

凛「バーサーカーならこんな防御は軽々突破できるわ。一石二鳥の案があるから、良いから準備なさい!」

男「・・・申し上げ難いのですが、よろしいでしょうか、凛。」

凛「なあに?」

男「私、旅行の準備はお付きの者達が全部やってくれたので、不得手というか、勝手がわからないのです。」

男「できれば凛にやっていただければ、ありがたいのですが。」

凛「あら、そうなの。それなら、貴方の軍勢にちゃっちゃっとやらせれば良いじゃない」

男「魔力の浪費は避けるべきです。」

男「宿先から道具をここまで取るために徘徊するか、直接戦闘の役に立たないサーヴァントから、さらに宝具まで取り上げるか。選びなさいな。」

凛「もう、わかったわよ。私がすればいいんでしょ、すれば」

凛が自分の部屋に戻っていく。
男は急いで隠した顕微鏡と試験管を取り出すと、ため息を付いた。
工房から彼の趣味のために拝借したものだ。

男「顕微鏡や試験管も霊体化してくださらないでしょうか・・・」 



76:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 23:28:54 ID:quUrkmWM

衛宮邸(夕方)

凛「こんばんは、衛宮君」

士郎「遠坂!?どうしたんだその大荷物は。今日は今後の作戦を相談するだけじゃなかったのか?」

凛「そうよ。それと、今夜からここで寝泊まりするから」

凛「あっちの新しい方に良い部屋がたくさんあるでしょ?一つ借りさせてもらうわね」

士郎「」

凛「あら、お金のことなら心配しなくていいわよ。生活費なら渡すから。はい」

士郎の手元に大粒のサファイアが置かれる。
クエスチョンマークを物質化したならば、彼はそれらに押し潰されていただろう。
勝手に上がり込んで、奥へと向かう凛。
アーチャーが何やらペコペコと謝罪の言葉を口にしているが、耳に入っていないようだった。 



77:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 23:29:48 ID:quUrkmWM

セイバー「おや、凛ではないですか」

凛「こんばんは、セイバー。今日からこのお屋敷に厄介になるわね」

セイバー「そうですか。凛がいるならば心強い」

凛「お褒めの言葉ありがとう」

手をひらひらさせて奥へと向かい、部屋に入っていく凛。
少し遅れて、スーツケース6箱を抱えたアーチャーがふらふらとやってきた。
セイバーとアーチャーの目が合う。

セイバー「・・・」
アーチャー「・・・・・・」

しばらく沈黙する。

セイバー「一つお持ちしましょう」

アーチャー「ああいや、お心遣いありがとう。しかし、女性に荷物を持たせては格好がつきませんから」

筋力Dには少々厳しい重量の荷物を抱えながら、ふらふらと部屋へ入っていくアーチャー。
セイバーはその姿を見送ると溜息を一つついた。

セイバー(昨日のお礼をすべきだったのでしょうが、機会を逃してしまいました) 



78:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 23:30:56 ID:quUrkmWM

セイバーの脳裏に昨日の光景が蘇る。
あの兵達は、アーチャーの言葉ひとつでステータスがひとつ上がるほど心服していた。
円卓の騎士達と比べても仕方ないが、彼らのほうが遥かに堅い信頼関係で結ばれているのは疑いないと――
そこまで考えた時、かつての仲間を貶めてしまった自分に愕然とした。

赤髭の征服王<ライダー>を思い出す。
小娘と侮辱し、自らの在り方を完全に否定してきた彼と、アーチャーの姿が重なった。
アーチャーから、征服王の幻影を振り払う。

彼は貧相な痩せぎすの中年男性に過ぎないではないか。

自陣の先頭に立ち、軍を率いて雄々しく戦う威風堂々たる征服王とは違う。
軍の後ろで一言声をかけてコソコソと逃げる、そんな人間が王の器であるはずがない。
そもそも直接戦闘すれば、一撃で仕留められたはずだ。

唇をぐっと噛みしめる。

セイバー(何を考えているんです、アルトリア。彼は士郎と私の恩人なのです。)

セイバー(彼がいなければ、そもそも私はバーサーカーにやられていた)

セイバー(騎士王たるもの、同盟を結んだ相手、しかも命の恩人に礼を欠くべきではありません)

セイバー(先ほどまでの私はどうかしていた)

セイバー(次に見かけた時は、必ず礼を言いましょう) 



79:>>ID変わりましたが、1です:2015/09/30(水) 23:32:25 ID:quUrkmWM

物思いに耽るセイバーは、部屋から出てくる二人に、ようやく気がついた。
注意が散漫になっているようだ。
口論というよりは一方的に説教をされ、うなだれているアーチャー。

凛「だから言ったでしょ、目についた物を片端から持っていくのは無謀だって。部屋に荷物が入りきらないじゃない」

凛「もう一つ部屋を借りる羽目になるなんて、無駄遣いもいいとこよ」

凛「ほとんどアーチャーのために持ってきた荷物なんだから、自分で衛宮くんと交渉しなさいよね」

男「・・・おっしゃる通りでございます」

セイバーは口を開きかけたが、再びつぐんでしまった。
二人がセイバーの目の前を通り過ぎていく。

セイバー(次。次に見かけた時こそは、絶対に御礼を言いましょう)

セイバー(今日はどうも調子が悪いようです。気が立っているのでしょう)

その調子が悪い原因が感情であり、「嫉妬」であることに、セイバーは気づくだろうか――
王は心がわからない。 



87:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 07:49:59 ID:To.KVpbI

衛宮邸(夜)

士郎「作戦はだいたいわかった。俺も手伝うよ、遠坂」

凛「士郎が?あんまり役に立つとは思えないけど」

失礼なことを言われてムッとする士郎。しかも、いつの間にやら呼び捨てにされている。
どうやら、学校での完璧美少女優等生の遠坂凛は仮初の姿だったようだ。
少し怒りながら反論する。

士郎「俺だって魔術の修行を続けてきたんだぞ」

凛「へえ?一体どんな魔術」

士郎「強化の魔術だ。棒きれとか紙切れが、鉄パイプぐらいの硬さにできる」

士郎「あと、電化製品とか、道具の構造とか分かったりするぞ」

凛「ふーん。後で見せてもらえるかしら」

士郎「いつも工房で練習してるから、見せてやるよ。まあ、ほとんど成功したことないけどな」

士郎「最後に成功したのは、ランサーに襲われた時だ。それだって久しぶりだった」

凛「あら、工房なんてこの家にあったの?」

士郎「只の土蔵だけど、一応条件は満たしてるって爺さんが言ってた」 



88:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 07:50:46 ID:To.KVpbI

凛「爺さん?」

士郎「俺を育ててくれた人だ。俺の両親は10年前の大火災でどっちも他界してる」

凛「ごめんなさい、悪いことを聞いちゃったわね」

士郎「別に良いよ。昔のことなんて全然覚えてないし」

凛と士郎の会話が続く。アーチャーは二人のお茶を注ぎ、お菓子を足す。
一部屋多く借りることを士郎はあっさりと承諾してくれた。

しかし、タダというのは心苦しい。
こうして働いているのは、ひとえに申し訳無さのためだ。

大河「あら、ありがとうアーチャーさん」

男「いえいえお構い無く。」

煎餅を齧りながらテレビを眺めている藤村大河。
学校の教師をしているのだが、この不純異性交遊の現場を諌めるには役者不足だったようだ。

凛が鮮やかに丸め込んだ手口を録音すれば、「振り込め詐欺にご用心!」の宣伝に使えるのではないだろうか。
テレビの振り込め詐欺事件の報道を見ながら、アーチャーは、ぼんやりと考えていた。
「続いて、次のニュースです。本日の昼頃、冬木市で再びガスの事故が・・・ 



89:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 07:51:17 ID:To.KVpbI

男「・・・どうぞ。」

セイバー「・・・・・・」

無言でお茶をすすり、菓子をつまむセイバー。
こちらを一瞥すらしない。

アーチャーはため息をつきたいのを堪え、菓子の包みを集めると、ゴミ箱に落とした。
何か悪いことをしただろうかと考えたが、あまり思いつかなかった。

大河「また集団ガス中毒ですって。怖いわねー。士郎も気をつけなさいよ」

大河「最近、街がぶっそうなんだから。学校に遅くまで残ると危ないわよ」

士郎「分かったよ藤ねえ。藤ねえこそ、この家に夜遅くまでいて大丈夫なのかよ」

大河「それもそうね。そろそろ帰ろうかしら」

彼女はすっと立ち上がると、テレビを消して、そのまま玄関へ向かっていく。
随分と奔放な性格のようだ。士郎が玄関まで見送りに行く。
原付の音が遠ざかると、再び居間に戻ってきて、凛に声をかけた。

士郎「じゃあ、見せてやるから土蔵まで来てくれ、遠坂」

士郎「あ、セイバーはここにいてくれ。気が散ると危ないんだ」

セイバー「わかりました、シロウ」 



90:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 07:52:36 ID:To.KVpbI

その場に再び座るセイバー。
二人が去っていけば、二人が残ることは必然だ。

セイバー「・・・」
男「・・・どうぞ。」

再び無言で茶をすすられる。
気まずさに辟易していたアーチャーだが、我慢するのは慣れている。
沈黙タイムトライアルを覚悟した矢先、セイバーが口を開いた。

セイバー「アーチャー!」

突然大声を上げられ、びくんと肩が跳ねるアーチャー。
何か失礼なことをしていないかと頭を回転させるが、彼に落ち度はないため回すだけ無駄である。
そのオタオタしている様子を見て、セイバーは躊躇いがちに言葉を続けた。 



91:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 07:53:14 ID:To.KVpbI

セイバー「・・・その。あの後、彼らはどうなりましたか。」

男「彼ら?ああ、バーサーカーと戦った方々ですか。」

男「玉砕を選んだようです。絶望的な戦力差でしたが、誰も戦いを放棄しませんでした。」

セイバー「そうですか。勇敢な兵士に慕われているのですね。」

男「彼らのほうが、私よりも遥かに強く勇敢で、そして立派でした。」

男「その彼らを再び苦しめた私が、英霊として扱われているとは、片腹痛いですな。」

自虐的に言葉を紡ぐ。その顔から表情を伺うことはできない。
再び沈黙が二人を支配する。
本心から思わず発した皮肉だったが、アーチャーは後悔し始めていた。

セイバー「・・・そうですか。」

セイバー「私は、貴方のことを勘違いしていたようです。アーチャー」

男「勘違い、ですか?」

セイバー「もっと傲慢な人間だと思っていました。」

セイバー「あれだけ兵の尊敬を集めていたのですから、そのような皮肉を言うとは思いませんでした。」

男が頬をかく。やはり、先ほどの言葉は失言であったらしい。
セイバーが、ふと思い当たる節をぶつけてみた。 



92:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 08:33:25 ID:To.KVpbI

表現方法を補足しておきます。

「」は通常のセリフです。
『』はある条件下でのセリフになります。
()はセリフ形式での思考です。
<>内はルビだと思ってください。
衛宮士郎<おひとよし>と書かれているならば、「おひとよし」と発話しています。

わかりにくい表現や逸話の多用は極力避けますが、真名がわからないと理解が難しい部分もあるかもしれません。
その時は読み流して、アーチャーの真名に目処が付いた時点でもう一度確認してくださるとありがたいです。
分かれば、「ああ、なるほどなあ」と思う程度には有名だと思います。 



93:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:15:58 ID:To.KVpbI

セイバー「一つ質問があります。貴方はどこかの国の王なのですか?」

男「それは、難しい質問ですね。王であるとも言えるし、王でないとも言える。」

男「貴方の王の定義は何なのですか、セイバー。」

暫し考える。
選定の剣を抜いた時から彼女は王であることを運命づけられたが、定義となると難しい。
考えながら言葉を紡ぐ。

セイバー「生前、私は王であることを目指していました」

男「ほう。」

セイバー「王になると運命づけられた以上、王たらんとしたのです。」

セイバー「弱きを助け、悪しきをくじく。民を救い、滅び往く国を救うことが私の使命だったのです」

セイバー「私にとって、王とは、民のために命を尽くして戦う者。その代表であることを神から授かった者です」

男「民草のための王、ですか。貴方の治世は素晴らしいものだったのでしょう」

男「さて、それを王とするならば。私は王とは呼べないと思います」 



94:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:17:23 ID:To.KVpbI

セイバーが驚いた顔をする。
一つは、彼女の治世を讃えたこと。先の第四次聖杯戦争では、彼女は、彼女の治世と共に嘲笑われていた。

もう一つは、彼が自身を王ではないと否定したことだ。
王ならば、少なくともセイバーの定義を否定することを始めるはずである。
では、アーチャーは王では無いのだろうか。

彼女はアーチャーが王であることは確信に近いものがあったのだが。

男「私は、民の模範としての存在でした。」

セイバー「模範、ですか?」

男「民の一人としての理想の在り方を求め続けたのです」

男「自ら力を振るい、民を守ることを私は嫌いました。」

セイバー「それでは、民が路頭に迷ってしまうではないですか――」

男「それは違います。」

アーチャーが力強く言い放つ。
どちらかと言うと朴訥とした話し方のアーチャーだが、今は流麗に言葉を紡ぐ。

男「民は迷える子羊ではありません。意思を持ち、自らの足で立つ人間です。」

男「王であることは神が与えるのではありません。民が与えるのです。」

男「王を自称し、覇道を唱えるのは覇者のすること。王者ならば、自然に民と共に王道を歩みます。」 



95:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:24:03 ID:To.KVpbI

セイバーは、少し前の彼の発言について考えていた。
民が王位を与えるなら、高貴な血筋などはたちまち根絶やしになってしまうだろう。
何をふざけたことを、と反論しようとした時、アーチャーが言葉を続けた。

男「だからこそ、私は民の模範であって、王ではないのです。」

セイバー「は?」

男「民と共に戦い、民と共に迷い、民と共に歩んだのが、私の生涯でした。」

男「王道などという一本道をまっすぐ歩けるほど、私の器は大きくは無かったのです。」

セイバー「それでは、貴方は暗愚な王だったのですか?」

男「私を暗愚といえば、それは民を暗愚ということと同義です。」

男「民を代表するものとして、私は理想の民であった。」

男「そう言い切れるように、努力したのが私の最高権威者としての在り方だったのです。」

男「私の国は一度滅びました。そして、私の命と共に、永遠に失われるはずだった。」

男「しかし、私が生き永らえ、国も滅びなかったのは、この努力が評価された結果だったのかもしれません。」

セイバー「滅びたのに、滅びなかったのですか?」

男「そうです。」 



96:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:24:44 ID:To.KVpbI

セイバー「それは、貴方が死を回避し、再び国を興したということでしょうか」

男「その表現には、少し語弊がありますね。」

男「国が滅んだ原因は全て私にありました。それでも、民は私と国を救いました。」

男「戦争に敗れ、全てを失わされた民の怒りは凄まじい物だったはずですが、彼らは全てを克服したのです。」

セイバーが無言になる。
この男は、どうやら王としての在り方を捨て、民として生き、挙句国を滅ぼした。
そして、国が滅び路頭に迷った民が、再び同じ男を王として立て、国を興したということだ。

セイバー「・・・はた迷惑な人間だ、貴方という人は」

男「・・・そうかもしれません。」 



97:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:26:05 ID:To.KVpbI

セイバー「いいえ、貴方は自分のしでかしたことを分かっていない」

セイバー「私は、民を救うために先頭に立ち、民のために生涯を賭しました」

セイバー「王としての責任を放棄して民を殺したのは貴方だ、アーチャー!」

アーチャーが沈黙する。
再び口を開いた彼の言葉を、セイバーは考え続けることになる。

男「私は民が理想とした人間の代弁者として、責任は全て果たしたつもりです。」

男「民を殺したのは、他でもない民自身の選択だったように思います。」

男「その選択に対して、民は過去の選択に対する責任を負い、私は――

男「民の未来に対して、責任を負ったのです。」 



98:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:26:49 ID:To.KVpbI

********************************************

凛「わかった?貴方の魔術は随分と歪められてるの」

凛「これからビシバシ鍛えていくから、ちゃんとついてきなさい」

士郎「まさか、爺さんが出鱈目を教えていたなんてなあ」

士郎はショックを隠しきれていない。
今まで命を危険に晒し続けてきた結果が、完全に無意味だったのではやりきれないだろう。

居間に戻ると、セイバーとアーチャーが雑談をしていた。
アーチャーから海洋生態系の神秘について聞かされているセイバーは、うんざりとした顔をしている。

士郎「なんだ、二人共随分と仲良くなったじゃないか」

セイバー「シロウ、お帰りなさい。鍛錬は成果がありましたか?」

士郎「いいや、さっぱりだったよ」

男「それは残念でしたね。」

男「明日から長い一日が始まります。十分に休息をとって、万全の体調で臨みましょう。」

凛「言われなくてもわかってるわよ。部屋に戻るわよ、アーチャー」

男「わかりました。私はこの家の防御を強化しておきます。おやすみなさい。」

士郎「セイバーもしっかり休めよ。おやすみ、アーチャー」 



99:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:28:04 ID:To.KVpbI

どうやら、セイバーは随分と疲れているようだ。
英霊であるはずのセイバーが眠気を催すはずはないのだが――

セイバーが、突然倒れた。

士郎「セイバー!?」

とっさに士郎が抱え込む。

士郎「すごい熱だ・・・ 遠坂を呼んできてくれないか、アーチャー」

男「承知しました。」

遠坂がやってくる。顔に手を当てて、難しい顔をすると士郎にあることを伝える。 



100:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/01(木) 20:30:07 ID:To.KVpbI

遠坂「上手くマスターから魔力をもらってないみたい」

士郎「魔力を供給されなかったら、セイバーは消滅するんじゃないか?」

遠坂「その通りよ。今は召喚された時の魔力だけで何とかやりくりしてる状態だわ」

遠坂「このことは、いずれ対処しましょう。」

遠坂「すぐにどうこうできる状態ではないし、一気に悪くなるわけではないから。」

士郎が心配そうな顔をするが、遠坂が動かないのなら彼が悩んでも致し方がない。
遠坂に手伝ってもらい、鎧を解除させた。布団を引いて寝かしつける。
セイバーの希望で、部屋は士郎の隣にしておいた。

士郎「おやすみ、セイバー」

アーチャーが屋敷に防御を施し、夜がふけていく――
今宵も、月が美しい。 



104:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 06:38:26 ID:EypQVLLY

翌朝。

凛「分かった?今は学校は危険だから、士郎は残っていなさい」

士郎「仕方ない、従うよ遠坂」

寝ぼけていた凛であったが、士郎が当然にように学校に行こうとしていたため、完全に目を覚ました。
そこから口論がしばらく続いたのだが、士郎の敗北だったようだ。

不完全なサーヴァントすら連れず、敵の本陣のようなところに乗り込むのは自殺行為だと諭され、
セイバーの猛反対にもあった結果である。士郎には少し頑固なところもあるようだ。

凛「セイバー。しっかり士郎を守ってあげなさい」

凛「じゃあ、行きましょう。アーチャー」

凛とアーチャーが学校へ向かう。もちろん、アーチャーは霊体化した状態だ。
アーチャーの対魔力はずば抜けているが、凛は魔術に耐性があるというだけだ。
仮にも、敵の本陣に乗り込むにはそれ相応の覚悟が必要だが、それを自然体でやってのけるのが遠坂の血筋だ。

凛(気合を入れていかないと)

決意を内に固め、いつもどおりの一日が始まる。 



105:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 06:39:27 ID:EypQVLLY

学校(放課後)

最近、冬木市で多発しているガス中毒事件―― 、真相が不明であることはそれとなく学校に伝わっていた、
部活は停止され、下校時刻は繰り上げられた。

そんな空っぽの学校を、一人の魔術師が徘徊する。

凛「あった」

凛「貴方の魔術は便利ね、アーチャー」

男「魔術ではないのですが・・・ まあ、不自然な部分を見つけるのは私の十八番です。」

凛「十八番が多いのね、貴方」

アーチャーが少し誇らしげな顔をする。
皮肉のつもりで言ったのだが、伝わらなかったようだ。 



106:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 06:41:51 ID:EypQVLLY

凛「これで4つ目、と。はい完了」

凛「あとどれぐらいで作動するか、分かるかしら?」

男「一週間程度で発動するのではないかと。本丸を攻めていない以上、仕方ありませんね。」

屋上には、この結界が発動するための中心が存在する。
しかし、それに手をつけるには二人共、自身と系統の違う古代魔術についてあまりに無知であった。
代わりに、建物中に隠されていた小型の魔法陣を妨害している、というわけだ。

凛「あまり深入りしても仕方ないし、そろそろ学校は出たほうが良いわね」

凛「情報収集が必要よ。行くわよ、アーチャー」

男「どこに行くのですか?」

凛「新都の方よ」 



107:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 06:44:53 ID:EypQVLLY

冬木中央公園(夕方)

凛「アーチャーが魔力を感じるとか言ったからここまで来たのだけれど」

凛「ここには何もないじゃない」

男「ああ。凛には分かりませんか。」

凛がきょとんとした顔をする。
アーチャーが目を閉じる。
苦痛、苦悩、苦渋、激痛―― 強い呪いを受けて亡くなった人間が、これほどいるとは驚きだ。
呪いで死んだ人間は、呪いとして残る。それは人の輪廻か、原罪か。

怨念が語りかけてくる言葉を断片的に聞き取る。
断片であっても、この土地で何があったのか、アーチャーは正確に把握できた。 



108:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 06:45:26 ID:EypQVLLY

男「凛、一つ確認を良いですか?」

凛「なあに?」

男「10年前の第四次聖杯戦争は、どのように集結したのですか。」

凛「私も、詳しくは知らないんだけどね」

凛「マスターが聖杯の破壊を命じて、その余波で街が火災に飲み込まれたっていう話らしいわ」

男「そうですか・・・」

男「では、そろそろ戻りましょうか、凛。この土地は、長くいると危険です。」

男「私の宝具は人目につきやすいですし、そうでなくとも既に使いすぎています。」

凛「そうね。慎重に行動しましょう。焦る必要はないものね」

凛とアーチャーが帰途につく。

男(今は、貴方達を助けることはできません。もうしばらく、待っていてください)

アーチャーの魔術刻印がほのかに光る。
夕方は、逢魔が時と言われる時刻。歴史の重みが、彼と主人を、魔から守護する。
全ての街灯に明かりが灯り始める頃には、刻印は再び眠りについていた。 



109:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:08:22 ID:EypQVLLY

衛宮邸(夜)

凛「そう、セイバーに稽古をつけてもらっているのね」

凛「何事もほどほどにしておきなさい。いざという時に動けなかったら、意味がないんだから」

士郎「わかったよ、遠坂。今夜も魔術の修行をお願いできるか?」

凛「・・・あなた、本当に分かってるの?」

夕餉の時間ぐらい、口論はやめてほしいものだ。
アーチャーは更に口論を招くような発言を飲み込むと、料理に取り掛かる。
本来、アーチャーが食事を取る必要性は皆無なのだが、彼は食事が大好きであった。

男「いやあ、それにしても素晴らしい料理の腕前です、衛宮君。」

士郎「そう言ってもらえると作り甲斐があるよ、アーチャー」

士郎「ああ、食器はそのままにしておいてくれ。俺が洗うから」

男「申し訳ないですね。」

士郎「申し訳ないと感じる必要なんかないぞ。この屋敷を強化してくれてるのはアーチャーだ」 



110:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:09:45 ID:EypQVLLY

皿を手早く片付け、台所に持っていく。
3人分の皿を洗い終えると、遠坂に声をかけた。

士郎「じゃあ、俺達は工房に行ってくるから、アーチャーは残っていてくれ」

二人が土蔵へと向かう。
すると、それを見計らったかのようにセイバーが居間にやってきた。

男「体調はどうですか、セイバー。」

セイバー「今のところ問題はありません。お心遣い、ありがとうございます」

感謝の言葉をぴしゃりと口にする。
あまり感謝されている気はしない。

セイバー「私の食事はどこですか?」

男「ああ、冷蔵庫に入っていますよ。温めますね。」

アーチャーが電子レンジで料理を温める。心なしか、少し楽しそうだ。
家電製品の進化は、アーチャーにとって喜ばしいことであるらしい。
食事を出すと、彼女はすごい勢いで食べ始めた。 



111:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:10:59 ID:EypQVLLY

下品な食べ方ではない。むしろ礼儀正しいのだが、とにかく回転が早い。
「おかわりをお願いします」と給仕紛いのことをさせられているが、居候なので文句は言えまい。
一通り食べ尽くすと、今度は矛先をアーチャーに向けた。忙しい英霊だ。

セイバー「アーチャー、昨日の話の続きなのですが」

男「おお、続きをご所望ですか!つまり、サンゴ礁は生態系の砦として5億年もの長きにわたり・・・

セイバー「そっちはもう聞き飽きました」

話がぶった切られ、アーチャーはかなりご立腹のようだ。

セイバー「昨日の話は、元を辿れば貴方が王か否かという話だったはずです」

セイバー「それがどうして、ヒドロ虫なんかの話に」

男「ヒドロ虫なんかとは失礼な。我々の人類の遥か昔からいるのです。人類の誕生には・・・

再び講義が始まる。
こうなってしまうと、アーチャーを止められる生物は存在しない。
セイバーはため息をつくと、ぼんやりと昨日のことを考える。 



112:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:11:29 ID:EypQVLLY

アーチャーの言葉を思い出す。
『私は―― 民の未来に対して、責任を負ったのです。』

アーチャーは、未来に対する責任と言った。
責任とは、結果について責を負うものだ。
未来という結果の出ていないことに対して、責任を負うことは不可能なのだ。

そもそも、この男は国が滅んだ原因は、全て自身にあると言った。
にも関わらず、国を滅ぼしたのは民の選択であったらしい。

王らしからぬ人間ではあるのだが――
全てを背負って立つその姿勢だけは、評価に値すべきなのかもしれない。

男「すいません。貴方の体調を考えず、つい話にふけってしまいました。」

男「何か私に用がありましたか、セイバー?」

唐突に長い話が終わったため、面食らうセイバー。
思わず、当初の予定になかった無意識を、話題として出してしまった。

セイバー「いえ、その。貴方は聖杯にかける願いはあるのですか?」

男「聖杯への願いですか。凛も同じことを聞いてきましたね。」

男「私は聖杯にかけるような望みを持ちあわせておりません。」

セイバー「・・・そうですか。」

男「貴方は何か願いがあるのですか?」 



113:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:14:26 ID:EypQVLLY

聖杯の話を始めるべきではなかった、と後悔する。
自分から聞いたのだ。聞き返されるのは当然だ。
あまり話したくはなかったが、ポツリポツリと答える。

セイバー「私は、もう一度、王の選定をやり直します」

セイバー「自身の選定をやり直して、私の国を滅びから救うことが私の願いです。」

アーチャーにも思う所があったのか、難しい顔をして考えている。

男「どうして、そのようなことを?」

セイバー「最初は、自らの治世の誤った部分を正そうと考えていました。」

セイバー「しかし、私は気づいたのです。全ての過ちの根本は、自分にあったのだと。」

セイバー「私は、王の器ではありませんでした。」

男「国が滅んだ全ての原因が貴方に起因する、と?」

セイバー「そういうことです」

男「その点は、自分に対する過大評価も甚だしいですなあ。謙虚な貴方らしくもない。」 



114:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:19:23 ID:EypQVLLY

聞いた瞬間は、彼が何を言っているのかセイバーには理解できなかった。
しばらくして侮辱されているということに気づき、彼女は激昂した。
思わず、剣を取り出す。

セイバー「どういう意味ですか、アーチャー!答えによってはここで叩き斬る!」

男「言葉の通りです。貴方一人で国が滅びるほど、国は脆弱ではない。」

男「それとも、貴方一人いれば、敵国を滅ぼせたのですか?」

男「国は一人の物ではありません。貴方がどこの国の英霊かは、私は知りませんが――」

男「しかし、これだけは言えます。国が滅びるのは常に民の意志です。王や貴族、政府が滅ぼすことは不可能です。」

剣に手をかける。

セイバー「では―― 私の国は民に見放されていたから、滅んだということですか」

男「恐らく、そうなのでしょう。」

セイバーは斬ることを決意した。
この男にここまで言われる筋合いはない。 



115:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:20:53 ID:EypQVLLY

民草に全てを捧げた結果、臣下には裏切られた。しかし、民にまで見捨てられた覚えはない。
ここまで侮辱されるのは、たとえ仮初の仲間であっても、一線を超えていた。

男「剣を抜く前に、一つ、お伺いしましょう。貴方の国は、本当に滅んだのですか?」

セイバー「は?」

男「貴方は王として民に尽くした御方だ。そのような王を前にして、民が国を滅ぼす選択をするとは思えません。」

男「もう一度聞きます。貴方の国は、本当に滅んだのですか?」

セイバーは、自身の国が滅んだか否かは知らない。
彼女に忠誠を誓ったはずの騎士達に反乱を起こされた。娘を殺め、屈辱と後悔にまみれた最期の瞬間。
自身の治世をやり直すべく、世界と契約を結んで、参加した聖杯戦争。

彼女は、英霊として招かれたため、現代の知識はある。
しかし、英霊の座にあって、過去と未来を全て把握したわけではない。

王である自身が滅べば、国は滅ぶと思っていた。
しかし、それは違う。

国を形作っているのは王ではなくて、そこに暮らす民だ。
たとえ王であることを宣言しても、誰もそれを認めなければ、狂人が一人いるだけである。
彼女は、その事実に気がついてしまった。

セイバーは混乱していた。
国とは何か。王とは何か。自分のしてきた事は、一体何なのか―― 



116:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:30:16 ID:EypQVLLY

セイバー「わたし、は、

士郎「今日も収穫はなし・・・セイバー!?」

凛「ちょっと、貴方達何をしているの!?」

二人が帰ってきた。

セイバー「あ、いや、これは」

男「セイバーさんから、剣を教わっていたのです。私は自身の戦闘力が皆無で、それを恥じていたのですよ。」

士郎「なんだ、そんなことか。喧嘩してるのかと思ったぞ。居間で剣を抜くのはやめてくれ」

男「申し訳ありません。どうしても、と私がお願いしたのです。次からは道場で稽古をつけてもらうとしましょう。」

男「ところで、成果はありましたか?」

士郎「全然ダメだった」

凛「なぜか上手くいかないのよね。初歩中の初歩の練習のはずなんだけど」

男「そうですか・・・。」

どうやら、衛宮の訓練に関しては上手くいっていないようだ。戦闘では期待できない。
セイバーも魔力の補給がなく、十全からは程遠い。しかも、精神状態は不安定だ。
アーチャーがため息をつく。
今、バーサーカー陣営に襲われれば、我々はひとたまりもないだろう。 



117:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:31:48 ID:EypQVLLY

しかし、アーチャーと凛の予想に反して、事態は進んでいく。
正確に言えば、事態が何も進まなかったのである。
サーヴァントとの戦闘や、マスターとの接触もなく、不気味に時間だけが過ぎていった。

学校に行き、結界のチェックを行う。
魔法陣は全て処理した。これ以上、できることはない。
夕方になれば、新都や各地の調査をして、英霊の居場所に目処をつける。
夜には衛宮邸に戻り、食事を取る。

「冬木市で、また集団ガス中毒が発生――」

集団失神の原因は、キャスターであることは判明した。
周囲の人間から魔力を集め、拠点に篭もり、力を蓄えるのは彼らの常套手段だ。
命まで奪う気はないらしいと判断し、放置している。いずれは戦う必要があるだろう。

もう一つ変わったことと言えば、セイバーがアーチャーに全く話しかけなくなったことだろうか。
士郎・セイバー陣営との同盟に意義はあまり感じないが、
現時点でセイバーを敵に回す必要が無いのは大きかった。
手負いの獅子は、危険なのである。 



118:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/02(金) 20:34:30 ID:EypQVLLY

Interlude 2

イリヤ「バーサーカー!?」

バーサーカー「■■■■■■■■■■■■■■■■■・・・・・・・」

目の前でバーサーカーが倒される。
倒したのは、『奴等』だ。

ニタニタ狂気の笑みを浮かべながら、敵が迫ってくる。
「「「我らの無念、思い知るが良い」」」「「「死ね」」」
首に手をかけられる。魔術が上手く使えない。出した右腕がちぎられる。

イリヤ「あ゙」
痛い。声が出せない。苦しい。助けて、バーサーカー・・・

イリヤ「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 



119:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/03(土) 07:26:35 ID:OjePVoEI

大声と共に、目が覚めた。

イリヤ「はあっ、はあっ、はあっ」
イリヤ「うっ」ズキッ

三日前の戦闘で負傷した右腕を見る。
イリヤの人形のように美しかった腕は、今やどす黒く変色している。腐敗のようなものは、肩まで広がっていた。
過呼吸気味だった呼吸を整える。

イリヤ(どうして。どうして、治らないの?)

女「お嬢様!?どうかなさったのですか」
女「イリヤ。大丈夫?」

メイドが二人駆け込んでくる。セラとリズだ。

イリヤ「心配しないで。私なら大丈夫よ。悪い夢を見ただけだわ」

セラ「悪夢を見られたのですね。しかし、これで三日連続ですよ」

セラ「せめて、三日前に何があったのかお教えくださらないと心配でなりません」

リズ「イリヤ。話して」

イリヤ「ちょっと敵に手こずっただけ。傷も魔術が効いてるし、すぐに治るわ」

セラ「しかし・・・」

イリヤ「しつこい。主人が心配するなと言ってるの。メイドなら、主人の言うことを聞くのが仕事よ」 



120:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/03(土) 07:27:23 ID:OjePVoEI

セラがしぶしぶ引き下がる。
彼女の目から見ても、治癒が効いているとは到底思えなかった。

イリヤ(もしこのまま治らないなら、たぶん、長くはもたないわ)

イリヤ(ダメなら、早く、決着をつけないとね)

イリヤ「ん゙っ」ズキッ

再び痛みが彼女を襲う。起きている間はずっとこうだ。眠れば、再び悪夢を見る。
夢と割りきれてしまえば良いのだが、自らの無意識が及ぶ範囲ならあらゆる悪夢を再現させられている。

イリヤは水を一杯飲むと、再び眠りにつく。
とにかく、右腕の傷さえ治癒してしまえば、問題はなくなるはずなのだ。
自らの魔術と魔力を信じて、眠りにつく。しかし、彼女はすぐにうなされていた。

リズ「イリヤ・・・」
そっと顔の汗を拭く。
夢の中から彼女を救い出すのは、アインツベルンが誇るホムンクルスをもってしても不可能だった。

戦場の悪夢からは、未だ醒めない。 



125:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 07:36:45 ID:/d4ersL.

四日後。初めての休日が訪れた。凛が学校での決戦に向けて、部屋にこもる。
手持ち無沙汰のアーチャーが、衛宮の魔術特訓をサポートすることになった。

士郎「このロウソクの明かりを強くするんだが、上手く行かないんだ」

男「とりあえず、魔術を展開している貴方を解析してみましょう。」

男「では、お願いします。」

衛宮が意識をガラスに入ったロウソクに集中させる。
炎が少し揺らめくと――
ガラスの容器が粉々に砕けた。

士郎「あー。また駄目だったか。なにか分かったか、アーチャー?」

返事がない。

士郎「アーチャー?」

振り向くと、アーチャーが驚き、立ち尽くしていた。
想定外の事態に巻き込まれた人間は、こういう顔をするのだろうか。

男「衛宮君。君は、そうだな。果物ナイフに、強化の魔術を施してくれないか?」

士郎「分かったよ。でも、強化もほとんど上手くいったことは無いんだ」 



126:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 07:40:42 ID:/d4ersL.

土蔵に落ちていたナイフを取り上げる。
目をつぶり、意識を向ける。

「―――同調、開始」(トレース、オン)

「―――基本骨子、解明」
「―――構成材質、解明」

「―――構成材質、補強」
「―――全工程、完了」(トレース、オフ)

士郎「成功したぞ、アーチャー。こんなにうまくいくのは珍しいんだ」

士郎「何か分かったか?」

男「分かったことが二つあります。」

男「一つは、貴方が練習するべき魔術の方向性です。もう一つは、貴方が辿り着くであろう最終地点です。」

士郎「今ひとつハッキリしない答えだな。詳しく教えてくれよ、アーチャー」

男「確認ですが、君は一から剣、或いはそれに類するものを作ったことがありますか。」

士郎「昔、一回だけ作ったことがあるけど、爺さんに効率が悪いからやめろって言われてから作ってないぞ」

男「そうですか。」 



127:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 07:41:17 ID:/d4ersL.

男「貴方の魔術は剣という方向性で、ほぼ固定化されています。」

士郎「剣という方向性?」

男「基本的に、剣にまつわる魔術しか、貴方は使えません。」

男「原子を認識し、分子を理解することは、それの派生に過ぎないのです。」

男「投影の練習を、凛に頼んでしてもらいなさい。凛は基本が完璧ですので、役に立つと思います。」

士郎「なんだ、アーチャーが教えてくれるんじゃないのか?」

男「私は根本的に違う部分が多いので、教えるには不的確ですね。」

男「曾子も、習はざるを伝ふるか、と古来より戒めております。避けたほうが良いでしょう。」

士郎「そうか。それで、もう一つは何なんだ?最終地点、だっけ」

男「貴方は、剣を内包する世界を持っています。」

士郎「ちょっと待ってくれ、意味がわからない。」

男「言葉のとおりです。貴方の使える魔術は剣にまつわる物のみです。」

男「そして、その魔術は、その世界から引きずりだしたものに過ぎません。」

男「私が判明していることは以上です。とにかく、凛との鍛錬を欠かさないでください。」

士郎「・・・ちょっと腑に落ちないけど、分かったよアーチャー」 



128:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 07:41:53 ID:/d4ersL.

男「試しに、一本作ってみてください。お手伝いしますから」

士郎「そう言われてもなあ。 随分と久しぶりだから、どうなるか分からないぞ」

士郎が何もない空間に手を出す。
士郎「―――投影、開始」(トレース、オン)

先程よりも、無駄な工程が少ないため、アーチャーもほとんど何もしなかった。

士郎「ほら、これだ」

士郎が先ほどのナイフとそっくりなものをアーチャーに手渡す。
アーチャーがナイフを賛美する。
普通、投影魔術では、形状を現世で保ち続けるのは不可能に近いことであるらしい。

士郎「そろそろ昼飯の準備をするか」

二人とも居間に戻ると、衛宮が支度を始める。
ちょうど、凛も作業を終えたらしく、顔を出してきた。
衛宮の魔術回路について伝えると、少し驚いた顔をする。

凛「あら、そうだったの。基本があまりにもできてなかったから、気づかなかったわね」

どうやら、彼女のうっかり属性を発揮していただけらしかった。

昼食ができたが、セイバーが居間に来ないので、士郎が呼びに行った。
ここ数日、彼女が食事の時間をずらして、極力アーチャーを避けている。
そのことに、士郎は気づいていない。 



129:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 07:42:58 ID:/d4ersL.

セイバーと士郎が居間に入ってくる。
セイバーがアーチャーを見て、明らかに暗い顔をする。
それには触れずに食卓を囲む方が、互いのマスターの友好関係に重要だろう。

しかし、今日は特にひどく見える。
もっとも士郎は、それに気づいていないようではあったが。

士郎「遠坂は部屋で何してたんだ?」

凛「準備よ、準備。敵の胃袋に飛び込むんだから、完璧な計画で望まないと駄目じゃない?」

男(完璧にぽっかり大穴が開いているとか言うと、機嫌を損ねるんでしょうなあ・・・)

食事を終えると、衛宮はセイバーとの稽古に行き、凛はまた部屋に戻っていく。
屋敷の強化がひとしきり終わり、再び手持ち無沙汰になった。久しぶりの休日だ。

男(さて、衛宮邸の生物相でも調査しますか。面白い発見があると良いのですが)

あまりやることは変わらないようだ。 



130:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 23:57:08 ID:/d4ersL.

衛宮邸(夜)

男「だから、士郎君も趣味を持ちなさい。人生は楽しまねば、損なことしか残りませんよ。」

アーチャーが偉そうに説教する。
一日中、ほとんど休まずに働き詰めていたのが目についたようだ。
凛が加勢する。彼女にも思うところはあるようだ。

凛「アーチャーの言うとおりよ。大体、士郎は自分が楽しむことに関しては本当に無頓着なんだから」

凛「他人に尽くすだけ尽くして、後は何も望まないなんて、そんなのロボットじゃない」

士郎「ロボットなんて、失礼だな。やることが多くて、休んでいる隙がないだけだ」

凛「休んだことや笑ったことなんて無いくせに」

士郎が言葉に詰まる。

凛「だいたい、毎日自殺まがいのことをしていたなんて、精神がどこかおかしいのよ」

凛「貴方はもっと自分のことを考えなくちゃ駄目」

士郎「あーあー、わかったよ遠坂。これからは休むから、もう勘弁してくれ」 



131:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 23:57:39 ID:/d4ersL.

奥へと引っ込んでいく士郎。どうやら形勢不利と判断したようだ。
戦略的撤退である。
お茶菓子を持ってご機嫌を伺いにくる様子は、さながら尻に敷かれた亭主のようだ。

士郎「それで、今日はどういう練習をするんだよ遠坂」

凛「んー、それを考えていたのよね。私も投影魔術なんてマイナーなものはよく知らないし」

士郎「なんだ、遠坂もあまり詳しくないのか」

凛「すべての魔道士に聞いても、恐らく専門外だと思うわ。補助的にしか使わない魔術でしょうし」

凛「とりあえず実践あるのみ、というのが一番じゃないかしら」

凛「どのみち、きちんとした形で魔術が行使できるようになるのは10年はかかるから」

士郎「10年もかかるのか・・・ 今回には役に立ちそうもないな」

士郎「やっぱり、セイバーに剣を教えて貰っている方が良いのか」

凛「あら、役に立つかどうかなんて、やってみないとわからないじゃない」

凛「とりあえず練習よ、士郎。貴方の作った剣を見てから考えましょ」

士郎と凛が土蔵へと向かう。
ニュースをセイバーとアーチャーがぼんやりと見ていた。
また、ガス中毒事件が発生したらしい。
これが、恐らくキャスターの仕業であることは、既に突き止めている。 



132:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 23:58:23 ID:/d4ersL.

学校の魔術は、恐らくライダーの仕業だろう。
キャスターは魔術師の端くれらしく、注意深く、人々から魔力を集めている。
あのように乱暴に集めるやり方は、彼らしく無いとアーチャーは考えていた。

アサシン、という可能性もあったが、魔術に長けたアサシンがいたとしたら、
マスター数人ぐらいはとうの昔に事切れているだろう。
冬木市で殺人事件は、聖杯戦争が始まる前に一回だけ起きているが、それ以降は音沙汰無かった。

男(死体が巧妙に隠されていたら、厄介ですね。魔術を仕掛けたのが、ライダーであることを祈りましょう)

アーチャーが最も恐れているのは、凛に被害が及ぶことだ。
アサシンは、マスターを狙ってくる。
彼としてはサーヴァント戦の方が苦労が少なく好都合だ。

物思いにふけっていると、セイバーがこちらの方を見ていた。
いつの間にか、テレビも消されている。

セイバー「アーチャー」

男「お久しぶり、セイバー。今日は何ですか?」

ここ数日、一切話さなかったことなど無いように、切り返す。
セイバーの表情は相変わらず暗く、声は弱々しい。
それでも、少し落ち着いた様子で話し始めた。 



133:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/05(月) 23:59:09 ID:/d4ersL.

セイバー「あの後、私は士郎に頼んで、歴史書を見せていただきました」

男「歴史書、ですか?」

セイバー「はい。『キョウカショ』というそうなのですが。」

男「ほう。どのように書かれていたか、興味深いですね。」

セイバーの表情が一段と暗くなる。
自殺二歩手前の人間は、こういう顔をする。
そういう顔を、アーチャーは見慣れていた。

セイバー「私が全てを賭けて奮闘したあの歴史は――」

セイバー「教科書に一行も書いてありませんでした。」

高校の教科書、という時点でアーチャーはその答えは予想していたのだが。
当人には、随分とそれが堪えたらしい。

セイバー「ローマの支配が終わると、アングロサクソン人がブリテンに侵略し――」

セイバー「ブリタニアを征服した。ただ、それだけのことしか書いてありませんでした」

セイバー「私のことも、私の騎士団のことも、私の国も。全て無かったことになっていました」

セイバーが引きつった、自嘲的な笑いをする。
自殺一歩手前の人間は、こういう顔をすることもある。

これは危険な状態だ。
アーチャーが話題を変えようとする。 



134:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 00:00:18 ID:c0OqIDmw

男「貴方は、イギリスの出身だったのですね。」

男「アングロ・サクソンの侵入は、5世紀ごろと聞いております。」

男「異民族と戦いに明け暮れ、教科書に否定されており、剣を隠さなければならない女性・・・」

男「むう。存外に難しいですね。」

セイバー「心当たりがあるのですか、アーチャー」

男「貴方、というより、貴方達の存在は教科書には載せにくいでしょう。」

男「神話というのは、歴史学者が最も嫌うものの一つですから。」

男「世界で最も有名な英雄譚、アーサー王伝説。貴方はそこから来ている御方でしょう。」

セイバー「そこまで理解されていると、こちらとしては不都合ですね」

セイバー「貴方とは、少々話しすぎたようです」

セイバーの関心が、とりあえずは移された。
ほとんど口から出まかせの発言だったが、どうやら大きな情報を釣りあげたらしい。
このまま、話しを切って貰えれば、同居人が失意の内に自害するという事態は避けられるだろう。 



135:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 00:01:09 ID:c0OqIDmw

いや、聖杯戦争としてはそれで良いのかもしれないが。
聖杯に願うことが無いアーチャーとしては、不本意な形で最期を迎えさせたくはなかった。
それに―― たとえ最後まで勝ち抜いたとしても、彼女の望みはおそらく叶わない。
彼は聖杯の正体に、薄々気づき始めていた。

セイバー「貴方のことを教えなさい、アーチャー。それで五分として許しましょう」

セイバーがとんでもない事を言い始める。
できれば、避けたいことではあるが、逃げられそうもない。

男「仕方ありませんね。ほら、教科書のここのページに載っていますよ。」

セイバー「へえ、貴方はこのキョウカショに載っているのですね」

セイバーがチクリと嫌味らしく言う。
世界で最も有名な伝説の参加者と、比べられるのは不公平だ。

セイバー「あ」

男「おや、何か発見がありましたか。」

セイバーが驚きに目を見開いている。
高校の教科書、しかもセイバーから見れば随分と後の歴史だ。興味があるとはあまり思えない
何か、そんなに珍しいものでも載っていたのだろうか。

男「あ゙」

そう。彼は失念していた。
歴史の教科書になら、必ず載っている。
かつて敵であった、盟友との写真が―― 



136:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 00:01:53 ID:c0OqIDmw

セイバー「ほーう。これは思わぬ収穫です。また後日、これについてはお話しましょう」

男「待ちなさい、セイバーさん。あ、こら。待ってと言ってるのが聞こえないのですか」

男「おい、こら待ちやがれ!あ、痛い、つねらないでください、イタタタタ!」

怯んだ隙に逃げられる。
男は頬をポリポリと掻いて、ため息をついた。

男(よく考えれば、今までばれないほうがおかしかったのです。これからは、気をつけましょう)

しばらくして、士郎と凛が、土蔵から戻ってくる。
凛が、もう指導できることはないと言う。
投影に関しては、やはりあまり詳しくはなかったらしい。

士郎「本当に、剣を作るのが俺の魔術なのか?ナイフしか出てこないぞ」

凛「貴方の技術がお粗末だからでしょ。練習すれば、たぶん剣が出てくるわよ」

士郎「そうだと良いんだけどな」

士郎「アーチャー、服が乱れているぞ。何かあったのか?」

男「いえ、庭に珍しいコオロギがいただけです。異常はありません」

士郎「そうか、なら良いんだ」

士郎と凛が、各々部屋へと戻っていく。その時、凛に呼び止められた。 



138:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 20:04:14 ID:c0OqIDmw

凛「アーチャー、今から私の部屋に来なさい」

明日から、学校だ。サーヴァントとの決戦が近づいている。
恐らく、その作戦会議なのだろう。

男「了解しました、凛。」

凛とアーチャーが部屋にはいる。
そこには、冬木市の地図が広げられていた。赤い×がいくつか付いている。

凛「何か気づかないかしら、アーチャー」

試すように、凛が聞いてくる。
ここは、サーヴァントとして本領を発揮したいところであった。

男「これは、ガス中毒事件に代表される集団中毒があった場所ですね。」

男「しかし、あまり法則性のようなものは無かったはずですが。」

凛「実はそうでもないのよ」

凛「私の通っている学校周辺と、柳洞寺の周辺では、この事件が起きていない」

凛「本来、霊脈の上にある人間は、その影響を受けて魔力を多く持っていることが多いの」 



139:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 20:05:55 ID:c0OqIDmw

凛「どうして、そんな美味しそうな人間を襲わないと思う?」

男「――なるほど。感服しました。」

凛「学校の結界は、キャスターの仕業ではない。恐らくライダーで、大穴がアサシンね」

凛「そして、学校周辺ではあまり事件を起こしていない。もう分かるでしょ?」

男「キャスターと、ライダーが同盟を組んでいるということですか。」

凛「そういうこと」

どうやら、洞察力でも彼女には敵わないようだ。
キャスターとライダーが同盟を組んでいる可能性が高いというのは意外だが、
言われてみると案外しっくりくるかもしれない。

不遇なクラスで手を組み、三騎士に対抗するのはうまい考えだ。

男「すると、学校ではライダーとキャスターが襲ってくる可能性があります。」

男「一体だけなら、何とかなるかもしれませんが。二体となると厳しいですね。」

男「セイバーを連れて行くのですか?」

凛「いいえ、あくまでも私達だけでやるわよ」 



140:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/06(火) 20:07:20 ID:c0OqIDmw

男「それは―― 危険ではないでしょうか。」

凛「セイバーはともかく、士郎は戦力にはならない。連れて行けば、そこを付け込まれるわ」

凛「駒を一つ、つまらない相手で失いたくはないでしょ?」

凛「それに、私達がこうして同盟を組んでいることは、イリヤとランサー以外、把握していないはず」

男「わかりました。私に、頑張れと仰るのですね。」

凛「その通り!よくできました、アーチャー」

男「からかうのも大概にしてください。それでは、凛には体調を整えてもらいましょう。」

男「おやすみなさい、凛。」

凛「おやすみなさい。アーチャー」

部屋から出る。決戦の日は近い。

男(さてさて、気を引き締めてかからないといけませんね)

アーチャーが天井へ登る。今宵は新月、星を見るにはうってつけだ。
静寂の中、白く輝く星が掻き消えるまで、眺め続けていた。 



141:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 07:51:23 ID:qeqyoOS2

翌日。
昼休みを屋上で過ごす凛は、アーチャーと相談していた。
昼食は、コンビニで買ってきたペラペラなサンドイッチだ。

凛「だいぶ、酷くなってきてるわね」

結界の作動が、かなり近づいてきていることが、凛にも分かった。
今週中に発動するのは間違いないだろう。

男「まだ、大きな動きを見せている陣営がないのは不気味ですね。」

男「全ての陣営が、この結界に着目しているのかもしれません。」

凛「そうね。こんなバレバレな結界ですもの。こんなことをしてたら、真っ先に潰されるわ」

凛「でも、私は生徒として、堂々と出入りができる。この利点を生かさない理由はないと思わない?」

男「それもそうかもしれません。」

アーチャーは、遠坂凛という人間を理解し始めていた。
魔術師として冷酷な側面もありながら、「心の贅肉」とやらに逆らわない人間的な側面もある。
その二つを、上手く使い分けているのが彼女の在り方だ。 



142:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 07:52:15 ID:qeqyoOS2

男「アサシンに動きがないのが不気味ですね。」

凛「基本的にマスターを狙うサーヴァントですもの。混乱に乗じて一発逆転を狙ってるはずよ。」

凛「もちろん、貴方なら見破れるわよね?」

男「それは、保証しかねます。もしかすると、とうの昔に我々に張り付いているのかもしれません。」

凛「そうかもね。でも、それなら手を出してこないなら理由があるはずでしょ?」

凛「手を出してきたときは、さくっと斬り伏せれば良いの。期待してるわよ、アーチャー」

アサシンを恐れず、往来を堂々と行動する。
凛の大胆さには、呆れることもあるが、やはり優秀なマスターなのだろう。

男(貴方がマスターで、本当に良かったです。凛)

男「今日の放課後はどういうご予定ですか。」

凛「今日は、学校からはすぐに帰るわよ」

凛「やるべきことはもう全てやり尽くしたし、毎日同じパターンで行動するのは危険なのよね」

男「なるほど。家に戻って英気を養うのですね。」 



143:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 07:53:16 ID:qeqyoOS2

凛「あら、そんな呑気なことはしないわよ。アーチャー」

凛「今日は、目下のところ潜伏されている可能性が高い柳洞寺を調べるわ」

アーチャーが絶句する。
前言撤回。彼女の大胆さには、呆れるしか無い。

男「いや、それは危険すぎます、凛。」

凛「あら、大丈夫よ。調べると言っても、周りをウロウロするだけだから」

男「しかし、ですね・・・」

凛「キャスターの陣地の近くで行動を起こすのは危ないって言いたいんでしょ?」

凛「だとしたら逆ね。キャスターは自分の陣地を離れて魔力を集めてる。危険なのはむしろ遠方よ」

凛「直接戦闘になれば、アーチャーの対魔力を準備なしに突破するのは難しいと思う」 



144:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 07:54:49 ID:qeqyoOS2

男「しかし、敵にはライダーが付いている可能性があります。」

男「私の宝具は、戦闘離脱や時間稼ぎには長けています。しかし、正体が分からない以上、警戒すべきです。」

凛「それも大丈夫だと思うわ。」

凛「ライダーは、この結界が作動すれば莫大な魔力を手に入れられる。」

凛「待っていれば、有利な状態に立てるのに、そんなタイミングで私達に攻撃を仕掛けるかしら。」

男「・・・おっしゃるとおりです。」

凛「ね?相手の意表を突いて、ガンガンいくわよ!」 



145:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 21:17:05 ID:qeqyoOS2

放課後。

予定通り、学校をすぐ後にする。
柳洞寺は学校からは遠いため、それとも上手く要求を満たしている。
いくら理論的に安全とはいっても、わざわざ襲撃を受けやすい夜に見に行く必要はない。

柳洞寺は、冬木の霊脈、その中心地点だ。
聖杯戦争のはじまりの地は、柳洞寺周辺であったと言われている。

柳洞寺に到着すると、注意深く周りを巡る。

凛「なにか分かったかしら、アーチャー」

男「この結界は、普通のサーヴァントなら、そう簡単には通れそうにないですね。」

男「異物を阻む土地、というのでしょうか。自然霊なら通過できますが、サーヴァントは厳しいでしょう。」

男「もし、この中に侵入しようとすれば、正門をくぐるしかないと思います。」

凛「なるほど、守るに堅い土地っていうわけね・・・ アーチャー、隠して!?」 



146:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 21:17:49 ID:qeqyoOS2

アーチャーが即座に神術を発動する。
凛が空気と一体化し、いわゆる気配遮断に近い状態だ。
普通の人間なら、到底気がつくことは不可能である。

しかし、サーヴァントの気配はまるでない。
凛は、一体何から隠れたのだろうかと訝しんでいると。

凛「もういいわよ。アーチャー」

男「どうしたのですか、凛。」

凛「いや、うちの学校の教師がいたのよ。驚いた、柳洞寺に住んでいたのね」

凛「最近学校が閉まるのが早いから、先生も割りと早く帰れるのかしら」

学校の先生というのが割りと面倒なことを凛は良く知っていた。
授業に部活、顧問の仕事にテスト、雑用が大量にあるのを見て、教師というのは一定の尊敬に値する仕事だ。 



147:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/07(水) 21:18:21 ID:qeqyoOS2

凛「まあ、そんなことはどうでもいいわ。どう、なにか分かった?」

男「サーヴァントの気配も遮断されているため、中の様子を探るのは不可能です。」

男「正面から覗けば、分かることもあるかもしれませんが、ライダーとの鉢合わせは避けるべきでしょう。」

凛「そうね・・・ 結局、収穫はなし、ね」

凛「戻りましょう、アーチャー。」

男「ええ。」

二人が衛宮邸へと向かう。
結界が作動するのは明日かもしれないし、来週にまで伸びるかもしれない。
しかし、いずれにせよ今回の聖杯戦争の鍵を握っているのは、学校の結界であった。 



148:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:03:40 ID:gBks7Dc2

衛宮邸(夜)

士郎「そうか、柳洞寺にいったのか」

士郎「最近、一成にもあってないなあ。久しぶりに行くか」

凛「絶 対 に や め な さ い」

家にこもっているため、あまり士郎には緊張感がない。
緊張感はないが、常に張り詰めているのがこの少年の在り方のようだ。
一から魔術回路を作るような暴挙に出るような人間だ。死など、もはや恐れていないのかもしれない。

男(死を恐れない人間、ですか。悲しい歴史が繰り返されることは防ぐべきものでしょうか。)

食事を終え、食器を洗うと、またいつものように士郎は鍛錬だ。
凛は、自室に戻る。発動に備えて、色々準備することがあるらしかった。

そして居間には――
ニンマリと笑うセイバーの姿があった。このような表情は、とても珍しい。

男「何ですか、ニヤニヤ笑って。ごはん粒がほっぺに付いていますよ。」

セイバー「なに、それは本当ですか。」

男「ほら、ここです。」 



149:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:05:33 ID:gBks7Dc2

自分の顔を指して位置を教える。
暫くして探り当てると、ごはん粒をつまんで口に放り込んだ。
少しだけバツの悪い顔をすると、話を始める。

セイバー「貴方は、この国の英霊だったのですね」

男「このような形で真名が判明するとは・・・ 全く、情けない限りです。」

セイバーがクスクス笑う。
笑った姿を見るのは、アーチャーにとって初めてのことだ。

セイバー「騎士は名乗られたら、名乗り返すのが礼儀です。」

セイバー「貴方は名乗ったわけではありませんが、近い行動をとってくれたので特別にお教えしましょう。」

セイバー「私は、アーサー・ペンドラゴン。アーサー王として、この国では知られているようですね。」

アーチャーが目を見開く。
真名を明かしてきたことにも驚いたが、何よりも――

男「アーサー王は、女性、だったのですね・・・」

アーチャーはショックを隠しきれていない様子だ。
アーサー「王」伝説というくらいだから、王様はアーサー。
しかし、目の前の女性が、かの有名な騎士王だとは思っても見なかっただろう。 



150:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:17:58 ID:gBks7Dc2

男「そうですか。これまでの、貴方の話にようやく一本、筋が通りましたよ。」

男「民のために戦い、ブリテンを一時とは言え滅びの運命から救い。」

男「そして、最期には仲間の裏切りに合い、失意の内に滅びたアーサー王。」

セイバー「改めて、おっしゃられると心に来るものがありますね」

セイバー「貴方は、仲間と信じていた人々に裏切られたことはないのでしょう、アーチャー」

男「ええ、その通りです。」

男「全員が、これこそが正しい方向だと信じていた。その結果が国家の滅亡です。」

男「最後に決断を下したのは、私でした。しかし、それは民の代弁者としての決断のつもりです。」

男「民の模範であろうと心掛け、力を振るうことを避け続けた私は――」

男「結局、力でもって、全てを終わらせたようにしか、皆には映らなかったでしょう。」

男「私の目指した在り方は、私の愛する民の前では無価値だったのです。」

男「貴方は―― 最後の最後で、自分の正義を民よりも優先したのでは無いですか?」 



151:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:18:33 ID:gBks7Dc2

セイバーが呆然とする。
「王は人の心が分からない」と言い残して去っていった騎士がいた。
彼女は、そんな彼を惰弱だと思い、気にすら止めなかった。

やはり、自分は王になる器などではなかったのだろう。
覚悟を決める前に、アーチャーが話を続けた。

男「いや、先程は失言でした。」

男「貴方は、王でしたね。自らの正義を示すことは、民よりも重要であるべきなのでしょう。」

セイバー「しかし、私は民のために――

セイバーが途中で言葉に詰まる。
アーチャーは話を遮ろうとはしない。
じっと、次の言葉を待つ。

どことなく、これが彼の言う「民の模範」としての在り方なのだろう、と納得していた。

セイバー「私は民のために、正義の戦いをすると誓ったのです」

セイバー「民を置き去りにした正義の戦いは、私の自己満足に過ぎなかったのでしょう」

セイバー「国を救うために、村を一つ犠牲にした。私の誓いは空虚となり、私の存在価値は無くなった」

セイバー「私の国は、私の無価値さと共に、歴史の闇に葬られたのですね」 



152:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:19:21 ID:gBks7Dc2

セイバーが乾いた声で笑う。
自らの犯してきた過ちの数々を嗤う。
今まで、よくもまあぬけぬけと王などと名乗っていたものだ。

私を王と認めていたのは、結局のところ自分だけだったのだろう。
王を名乗る狂人の誕生である。
このような滑稽なことがあるだろうか。

男「貴方が、自身を無価値だと考えても、民はそれを許さないでしょう。」

男「何故ならば、貴方の理想のために犠牲となった命は、無価値では無いのですから。」

セイバー「それは、犠牲を増やしただけの暗君ということでは――

男「貴方の掲げた理想のため、進んで自ら犠牲なった人々が、どれだけいたのかご存じですか。」

男「『ブリテンの滅びの運命を救う。』ブリテンは確かに、異民族に滅ぼされたかもしれない。」

セイバーが唇を噛み締める。
他人から自らの国が滅んだというのを聞くのは辛いことだ。

男「しかし、その時には既に、貴方の正義は、貴方一人のものではなくなりました。」

男「民全員のものとして、共有されるようになったのです。」

セイバー「それは、一体どういう意味なのです―― 



153:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:19:51 ID:gBks7Dc2

男「簡単なことです。貴方の理想を実現させるため、民は千年に渡る努力をし続けました。」

男「貴方の名前が忘れ去られ。貴方の国も、貴方の敵だった国も滅び。」

男「それでも、民は決して、貴方の掲げた理想だけは忘れなかった。」

男「やがて。その国は、異民族の王を平和裏に廃止しました。彼は、最高権力者では無くなったのです。」

男「そして、民のことは民で決める国家として、生まれ変わることになります。」

男「王はいますが、飾りです。しかし、飾りは民の拠る所となる。」

男「わかりませんか、セイバー。民のために働き、挙句憎まれ、犠牲となるべき存在はいない。」

男「民のために民が働く、理想の国家です。」

男「言葉にすると簡単ですが―― その国家のために、夥しい血が流れてきました。」

セイバーは無言だ。
彼女が、何を考えているか分からない。
彼女が、本当に目指していた在り方とは全く異なることかもしれない。

しかし、アーチャーにとって――
それが、彼の人生を決定づけるほど。

その国家と、王の在り方は、理想だったのだ。 



154:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:20:27 ID:gBks7Dc2

男「セイバー。貴方が、もし、王の選定をやり直すというのなら。」

男「貴方が亡くなって、千年の間、戦い続けた民の在り方を否定するという事になります。」

男「既に、貴方は未来に対する責任を負っているのです。」

男「彼らの努力、彼らの犠牲を無意味なものと切り捨てるのが、貴方の正義なのですか。セイバー。」

アーチャーが、激しい口調から一転して、優しく声をかける。
柄にも無く、熱くなってしまったようだ。
セイバーに自らの在り方を否定されることが、彼自身の在り方の否定に繋がる――

そんな自分本位な理由かもしれない。

セイバーが肩をふるわす。
アーチャーが心配になって、顔を覗き込むと、

セイバーは泣いていた。

男「こ、これは、申し訳・・・・・・

しどろもどろに謝罪を述べる。
アーチャーの言葉は、セイバーの耳には届いていない。
男が舌を噛みながら謝罪している様子を、セイバーはぼんやり眺めていた。 



155:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 07:21:20 ID:gBks7Dc2

セイバー(ああ、この御方は―――)

セイバー(過去と未来を背負い、民と共に歩み続ける王だったのですね―――)

セイバー(死後のことなど、考えもしませんでした。そうですか、私は当に救われていたのですね)

セイバー(他でもない、私が救おうとした民達によって)

彼女の両目から、さらに光があふれる。
アーチャーに、私は問題ないと笑いかける。
その笑顔は、選定の剣を抜いた頃の、無垢な笑顔であった。


********************************

しばらくして、居間にアーチャーが一人取り残される。
士郎には、学校の結界を伝えていない。

最悪、ライダーとキャスターを一人で相手にしなければならない。
自分だけなら良いが、凛を守るには、どうしても足りない。

天井に登る。
今宵は曇天。虫の声に耳を澄まして、朝を迎える。 



156:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:34:47 ID:gBks7Dc2

翌朝。

凛「じゃあ、行ってくるわね。士郎は家にいるのよ」

士郎「なんだ。今日はやけにしつこいじゃないか、遠坂」

凛「いいから。絶対に家にいるのよ」

士郎「わかった、わかった」

凛とともに学校へ向かう。
校門から学校に入ると、ぐっと空気が重くなった。

凛(アーチャー)

男(ええ。恐らく、今日でしょう。)

何食わぬ顔で教室へと向かう。
その横顔は、心なしか緊張していた。

授業が一つ過ぎる。授業の二つ目が終わった。
昼食を取るために、屋上へ上がった時――

世界が赤く染まった。結界の発動だ。 



157:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:37:43 ID:gBks7Dc2

凛「アーチャー!」

男「問題ありません、凛。宝具は問題なく作動します。」

唐突に男が現れる。便利な宝具だ。

坂本「日本の夜明けは近いぜよ!!!」

凛(何かキャラが変わってない、アーチャー?)

男(久しぶりの手番で血の気が多くなっているのでしょう。)

坂本「あこに何かあるちゃー!」

凛「あ、こら、待ちなさい!」

教室は、阿鼻叫喚と化していた。学生が皆、倒れている。

他者封印・鮮血神殿<ブラッドフォート・アンドロメダ>
それは、効率よく血を摂取するための、胃袋のようなものだ。

男「一階からサーヴァントの気配がします、急ぎましょう・・・!?」

アーチャーが足を止める。
周囲を竜牙兵で囲まれた。骸骨剣士も真っ青の姿形だ。
彼らとは、ガス中毒事件の現場で交戦したことがある。
それほど難しい相手ではないが―― 



158:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:38:36 ID:gBks7Dc2

男(やはり、ライダーとは仲間ですか。厄介なことになってきましたね)

龍馬と凛がさっさと下へ降りていく。
純粋な戦闘力なら、彼のほうが遥かに上なのだ。

男(まあ、宝具は彼で占有されてますし、もう私にできることは、ほとんどありません・・・!?)

アーチャーは窓の外を見て、驚愕した。

男(なぜ二人がいるのです!)

校庭には、どうしてか、士郎とセイバーがいた。 



159:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:39:24 ID:gBks7Dc2

士郎「なんだか怪しいと思ったら、大変なことになってるじゃないか」

士郎「行くぞ、セイバー」

セイバー「ええ、一階からサーヴァントの気配がします。行きましょう」

二人が周囲に警戒をしながらも、一気に進んでいく。
しかし、玄関から入ろうとしたところで、多数の竜牙兵に阻まれた。

セイバー「この程度、足止めにもなりません!」

斬っていくセイバーだが、動きに覇気がない。
やはり、魔力の供給が不十分、というよりゼロに近いのが祟っているのだろう。

士郎「投影、完了」

士郎が長剣を複製する。いつぞや見かけたものだが、正確な記憶はない。
しかし、剣から使い方が伝わってくる。

士郎(よし、何とかなる)

士郎とセイバーがゆっくりと前進していく。
目指すは、一階の教室だ。 



160:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:39:57 ID:gBks7Dc2

坂本「どきーや!!!」

坂本龍馬、と名乗る男が片端から竜牙兵を叩き斬っていく。
ものすごい勢いだが、凛は置いて行かれそうだ。

凛「ちょっと、待ちなさ・・・

爆音がして、凛の横を弾丸が掠めていく。
彼が撃ったものだ。
自分のすぐ後ろにあった竜牙兵が飛び散る。

凛「危うく当たるじゃない!マスターを潰す気なの貴方!?」

坂本「すまんにゃ―!後ろにきぃつけやー!」

前だけしか見ていない男だと思ったが、存分視野が広い。
他人を駆使して戦うことに、坂本龍馬という男は長けているのかもしれない。
凛は、自身の守備範囲だけに集中していれば良い。後は、彼が始末をつけてくれる。
2階まで降りてこられた。

踊り場は竜牙兵で埋め尽くされている。
この突破には、少し時間がかかりそうだが―― 



161:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:40:27 ID:gBks7Dc2

凛「ガント!」

魔力の塊が放射され、竜牙兵に当たる。
それなりに怯むが、効果は薄い。しかし、それで十分だ。

坂本「とりゃっ」

気合の入らない掛け声で、隙のできた相手を崩し、斬り進む。
一連の動きには、無駄がない。
あまりに呆気無く倒していくため、相手の手強さを勘違いしそうである。

坂本「そろそろ一階に着くちゃー」

どうやら、気がつけば一階まで降りてきたらしい。

凛「サーヴァントの気配は分かるかしら?」

坂本「わかっちゅう。また敵が湧いてきちょるけ、すっといかーよ!」

一階には、更に多くの竜牙兵が待ち構えている。
しかし、凛は不思議と不安ではなかった。
坂本龍馬。万全であれば、この程度、修羅場ですら無いのだ。 



162:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:42:04 ID:gBks7Dc2

三階・廊下

男「・・・・・・」

アーチャーは動かない。
竜牙兵に最初はパンチやらキックやらしてみたが、余り効果はなかった。
対魔力は、魔術にのみ有効である。物理攻撃を和らげてくれるわけではない。

彼の頭には、たんこぶができていた。

男「・・・・・・」

アーチャーは動かない。
神術を使い、周囲の空気と一体化したが、これは動けば気づかれる。
先ほどまでいたはずの敵を探し、竜牙兵がそこら中にいる。

廊下のどまんなかで、息を潜める。
それほど強い敵ではないと断じた竜牙兵だが、丸腰の彼にとって十分な脅威であった。
アーチャーは、作戦を練り続ける。

男(さて、どうしましょうか)

作戦立案という名を借りた、逡巡であっただけかもしれない。 



163:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:43:40 ID:gBks7Dc2

一階・玄関

セイバーと士郎が竜牙兵の波を突破する。
心なしか、敵の勢いが落ちてきているようだ。
セイバーが次々と相手を切り伏せる。

そして、とうとう、本丸に出くわした。

セイバー「でりゃあああああああ!」

セイバーが目の前にいるサーヴァントに斬りかかる。
敵は妖艶に笑うと、衣を翻して、中空に消えた。

セイバー「士郎!まだこの周囲にいるはずです。気をつけてください!」

士郎があたりを見回す。
後ろから気配がした。すぐに振り返ると、サーヴァントがいる。
彼女が、自分に術をかけてきた。

士郎が後ろに2,3歩よろめくと、すぐにセイバーが斬り伏せた。

キャスターが叫び声を上げ、虚空に消える。
術の発動は、不完全であったらしい。 



164:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:44:16 ID:gBks7Dc2

士郎「はぁっ、さっきのは危なかった。手応えはどうだ、セイバー?」

セイバー「敵の本体ではなかったようですが、効果はあったようです。敵が消えていきます。」

その場で竜牙兵が崩れ落ち、主人と同様に虚空へと還っていく。

その時、上の気配にセイバーが気がついた。

セイバー「士郎!下がりなさい」

上からなにか落ちてくる。それが無様に着地して尻もちを付いた。

男「君たちは・・・何をしているのですか?」

アーチャーが怒ったように話しかけてくる。
着ている服は、ボロボロだ。

セイバー「そちらこそ、何をしているのです。凛はどうしましたか?」

男「凛は、私の宝具で守られています。私よりも役に立つはずです。」

男「学校には来るな、と凛から申し上げられたはずですが。」

士郎がバツの悪そうな顔をする。 



165:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:44:48 ID:gBks7Dc2

士郎「ほら、今日は遠坂の様子がおかしかっただろ」

士郎「何かあるかもしれないと思って、お前らを助けに来たんだ。――まずかったか?」

アーチャーが溜息をつく。
自らの命を危険にさらして救援に来た相手を無碍にできるほど、彼は冷徹にはなりきれなかった。

男「仕方ありません、来てしまったからには戦力として数えましょう。」

男「ライダーとキャスターが手を結んでいるようです。彼らを撃退しましょう。」

セイバー「キャスターなら撃退しましたから、残りはライダーのみですね」

男「・・・そうですか。」

男「戦闘力の差とは悲しいものですね」ボソッ

セイバー「何かおっしゃいましたか、アーチャー?」

男「いいえ、何も。急いで教室へ向かいましょう。」

三人が教室へと向かう。
既に、凛は教室に踏み込んでいるようだ。

セイバー「貴方はライダーと交戦していたのですね。手強かったですか?」

アーチャーは返事を返さない。
沈黙は金、とはよく言ったものだ。 



166:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:45:32 ID:gBks7Dc2

凛「何よこれ・・・?」

一階の教室は、机や教卓が吹き飛んでいた。激しい戦闘の跡だ。
そして、背面黒板に―――

サーヴァントが磔になっていた。

慎二「ひいいいいい!命だけは助けてくれ!」

横で慎二が怯えている。彼がマスターだったとは驚きだ。
ライダーの首が、その場で360度回転すると、ボテッと落ちる。
そのまま、それは消えていった。

慎二「この役立たずが!こんなクソサーヴァントじゃまともに戦えるわけないだろ!」

坂本「此奴はどうするが?」

慎二が、ひっと息を呑み、黙る。
首には無機質な刀が当てられている。いつ跳ね飛ばされても、おかしくない。

凛「やめなさい、そいつは脅威じゃないわ」

刀を下げられると、とたんに慎二が喋り出した。

慎二「そうだ、遠坂。俺はお前の敵じゃない。ここからは逃がしてくれ!」 



167:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:46:57 ID:gBks7Dc2

凛「ええ、必要な情報を話したら逃がしてあげるわ。」

坂本「おまんはそれでええだが?」

凛「三流にすらなれないマスターなんて、脅威じゃないもの」

凛「こいつがどういう経緯でマスターになれたかなんて知らないけど、魔術師でない以上、どうでもいいわ」

慎二「三流にすらなれない・・・?僕のことを言ってるのか?」

凛「ええ、そうよ。覚悟もなく、魔術師としての技量もなく聖杯戦争に参加した貴方は、三流以下よ」

凛「こっちは、遊びじゃないの。早く、誰がライダーを攻撃したのか言いなさい」

慎二「僕が・・・三流以下・・・」

慎二がブツブツとつぶやいて、黙る。 



168:>>ID変わりましたが、1です:2015/10/08(木) 19:47:38 ID:gBks7Dc2

凛「ほら、早く言いなさいよ。死にたいの?」

慎二「黙れ」

慎二「だまれだまれだまれだまれ!」

慎二「僕を誰だと思ってやがる。間桐家の跡取り、間桐慎二だぞ!それを三流以下だと・・・」

慎二「お前のような出来損ないに教えてあげる理由はないね」

凛「じゃあ、もういいわ。いずれ分かることですし。」

凛が次の言葉を告げる前に、いつの間にか入ってきたアーチャーが声をかけた。

男「そこまでです。」

坂本龍馬が消える。
凛は後ろを振り向くと、アーチャーの他に、余分なおまけが二つ付いてきていた。

凛「は?」

士郎「やあ、遠坂・・・」

慎二「衛宮、助けに来てくれたのか!今こいつに侮辱されたんだ。やり返してくれ!」

凛「士郎、どうして学校に来てるのよ!今日は絶対に来るなと言ったじゃない!」

二人に叫ばれて、困惑する士郎。
凛は、「ああんもう、計画が台無しじゃない」と呟いている。
とりあえず、凛から対応することにした。 


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元スレ
タイトル:凛「キャスター?ハズレじゃない!」ちょびひげ「あ、そう。」
URL:http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1443273891/
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